そして予想を越えた事態
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「はぁっ、はぁ‥っ」


どれくらい走ったかも分からないくらい走った。でも、夜道が怖いとか一人で助けられるんだろうかとか、そんなことは走っている間、頭の片隅にすらなかった。


暗闇に慣れていても、東公園だけは異空間だった。遠く離れた場所にある電灯がギリギリ届いて不気味に薄明るい公園の後ろには立ち入り禁止の山が堂々と構えている。


何もかものみ込んでしまいそうな山を睨みながら息を整える。走って火照る体に夜風がびゅううぅと当たって妙に肌寒い。今さらだけれど、ほんの一瞬だけ恐怖が襲った。よく考えたら焦りすぎてこの身ひとつで来てしまった。のり子さんたちに救助を頼むよう言っておいたことがせめてもの救いだ。


「よし、」


自分に気合いをいれるように両手をぎゅっと握って、私は東公園へ足を踏み入れた。






「佐吉ー!」


立ち入り禁止の看板から小石が山奥へと続いていた。


「龍之介ー!」


三人が迷わないように落としていったんだろう、龍之介が得意気に言っていたのを思い出す。
結果、迷ってるから意味ないけどな。


「一平ー!」


でもこれで彼らが山へ入ったことは確実だし、考えたくはないけど今もこの山の中でさ迷っていることにも繋がる。自然と山の奥へと進む速度が増す。


「ちょ、いないじゃん‥どこまで行ったの」


道とも言えない不安定な地面に落とされた小石を辿っても人の気配すらなかった。さらに、唯一の手がかりだった小石も私が今立っているこの場所で途絶えてしまっている。


「‥‥‥」


ここで初めてどうすればいいか分からなくなった。いる場所が分かっているなら見つかるだろうと根拠のない確信がここで消えてしまった現実に迫り来る、山のとてつもない存在感と恐怖。


「やべ、怖いんだけど」


小石が落ちてる方へ一旦戻ろうとしてもどこに何があるのかすら分からなくなるほど辺りは真っ暗で、ザザザァと上の方で木が揺れる音に私の平常心は脆く崩れていく。


‥これ、アレじゃんミイラ取りがミイラに状態じゃん。ん?ミイラ狩りがミイラにだっけ?あれ、取り?狩り?


「‥って、どっちでもいいわァ!」


いよいよ頭がおかしくなったらしい。山の中でノリツッコミ?何やってんだよ自分。今はそんなことしてる場合じゃないでしょーが!このままじゃ私も救出される側になっちゃうのに。


「あーもうどうしよう‥‥‥アーモンドしよう?」


あ、ガッキーのアーモンドチョコのセリフだこれ。


「‥って、いい加減にしろ自分ンンン!」


状況を考えろ、今果てしなくピンチだぞ!アーモンドでどうにかなるわけねーだろ、次の駅で降りればいいわけじゃねーんだよォオオ!


ちょっと落ち着こう。もうこれは完全にイタイ女だ、落ち着いて、今はこんな馬鹿みたいなことしてる場合じゃないんだよ。あの三人を助けに来たんだから、私がしっかりしないと。


なんとか落ち着きを取り戻し、さぁどうしようかと真っ暗な辺りを見回す。するとどこからか足音が聞こえてきた。


乾いた土を踏むようなその音は数人分、もしかして‥!


「‥佐吉?龍之介?一平?あんたたちなの?」


足音は聞こえても暗闇でどこからかはわからないので、とりあえず三人の名前を呼ぶ。すると、ピタッと足音が止まった。


「マナねぇだよ?あんたたちな‥」


そう言いかけたときだった、ガンッ!と鈍い音がして頭にとてつもない衝撃が走った。


「いっ…!」


痛みで体がぐらつくのが分かった。痛い、頭が割れるような痛みで私はその場に倒れ込む。


激しい痛みは続いて、何が起こったのかも分からないまま私は意識を手放した。


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