嫌な予感ほど当たるのはお約束
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結局その日、沖田総悟は閉店までお店に居座った。閉店作業を手伝ってくれて早く上がれたからまぁ良しとしよう。


「おつかれっしたー」


そしてヤツはさっさと帰り支度をしてお店の売れ残ったコロッケをのり子さんから渡され、表情のない声で裏口から帰っていった。


「マナ、裏にゴミ持ってとくれ」


のり子さんからゴミを預かり、店の裏に持っていくためお店を出た。5月にしては珍しく夜風が冷たい。


ゴミを持っていったあとお店に戻ったら閉店作業は終わっていた。ひとり増えるだけでこんなに違うもんなのかと内心驚いていると、閉めたお店のシャッターを叩く音が聞こえた。


「マナちゃん、のり子さんいる!?」


バンバンと叩く音と叫ぶような女の人の大声。何だろうと思いながら、急かされるようにのり子さんと一緒にシャッターを開けた。


「マナちゃん!のり子さん!」


シャッターを開けた先にいたのはたまに惣菜を買いに来てくれる安倍さんだった。ちなみに安倍さんは龍之介のお母さんである。


「どっ、どうしたんですか?」


安倍さんは今にも泣きそうな顔で私とのり子さんの腕を掴んだ。そして震えた声で、


「龍之介が、帰ってこないの。二人とも何か知らない?」


と言った。えっ、と状況についていけない私の足元にだらんと座り込む安倍さん。びゅうっと強い風が顔に当たった。


‥龍之介が帰ってこないとはどういうことだろう、寺子屋から帰宅していないのか、それとも佐吉と一平と遊びに‥


「‥っ!」


瞬間、嫌な予感が私の頭を過った。龍之介を含め、三人に最後に会ったあの日に話していたことを思い出す。


「らいしゅうのげつよう、朝10じここに集合な!」


そう、たしか三人は埋蔵金を見つけたとか言ってた、それで埋蔵金を探しにいこうと佐吉が言っていた来週の月曜は、


‥今日だ。


「大丈夫、目印に小石を落としてくんだ!」


まさかあの三人、本当にあの立ち入り禁止の山に行ったの?


「朝から行くから暗くなる前にかえれる、それにもう一回山に入ってるから迷わねーもん」


辺りはもう真っ暗、カラスが不気味に鳴き続けるあの山で、三人は‥


「先週の土曜日に授業参観があって今日はその代休だったんです‥それで朝から佐吉くんと一平くんと公園に行くって」


それでそのまま、と声を震わせる安倍さんの背中をのり子さんが擦っている。まずい、この時点で嫌な予感はほぼ的中しているようなものだった。


「4時には帰ってくるって言っていたの、でももう8時よ!?今まで遅れて帰ってくることなんて一度もないのよ、あの子。それで‥あの子がよく行く公園とかお店を回って探しているの、でもっ‥どこにもいないの!」


「‥っ!」


スーッと嫌な汗が背中を落ちていった。


あの三人は山に入って迷子になったに違いない。埋蔵金を探しに行ったんだ‥


でもそれを知っているのはあの三人以外は私だけで、もっとちゃんと止めるべきだったのも私だけで。


「「「マナねぇちゃん!」」」


心は罪悪感に包まれて、三人の声が頭の中を何度もこだました。


「マナ、今日は店に龍之介くん来たのかい?」


しゃがみこんでパニックになっている安倍さんを宥めながら、のり子さんが私を見上げる。


「‥‥‥」


「マナ?顔色が悪いよあんた‥」


なにも答えない私にのり子さんが首をかしげる。


「‥‥っ」


じわりとかいた汗が夜風に冷やされる。ぎゅっと握りしめた自分の拳は冷たく震えていた。


「助けなきゃ、」


ふと出た自分のその言葉に私は何度も頷いた。あの三人を助けなきゃ!


「のり子さん、すぐに警察に連絡して!私、」


‥あの三人の居場所知ってるかもしれない、思っていたより小さな自分の声に二人がこちらをパッと見た。安倍さんは大きく目を見開いている。


「マナちゃん、本当なの!?」


どくん、どくんと大きく鳴る鼓動を感じながら私は2回、頷いた。安倍さんは安堵したような表情でのり子さんの手を握った。


「東公園の裏にある山、」


あの日、龍之介が言っていたのと同じ言葉を口にする。


「東公園‥」


自分の息子がいるかもしれない場所を聞いた安倍さんは、さっきまでの安堵した表情から一気に不安そうな、来たときと同じ表情へ変わった。


「マナちゃん、あなたどうして‥」


「すいません、詳しいことはあとで話します。とりあえず早く警察に連絡してください」


山に遭難したのなら、ここで突っ立ってる場合ではない。一刻も早くあの場所に行って探さないと‥!


のり子さんも安倍さんも状況は把握出来ていないであろうが、大丈夫だと意を込めて二人に相槌をした私はその場から走り出した。




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