悪魔と亡霊
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「ぐっ‥たっ、ただいま‥!」


八百屋までのお使いを終えて帰ってきた、のり子さんは重くないからとか言ってたけどめっちゃくちゃ重かったんですけど!


じゃがいも1キロにキャベツ3玉、にんじん1キロに玉ねぎが3袋、その他の野菜系まとめて3キロ、何か無駄に長くてデカイ大根も2本ついてきた。


八百屋のおじさんに大丈夫かね?って心配されたけどマジ大丈夫かね私!腕がもげそうになりながらも必死で持って帰ってきたのはいいけど、腰半端なく重いんだけど、腕ピクピクするんだけど。生まれたての小鹿のようなんですけどォオ!


のり子さん、わざとじゃないよね?違うよね。こういうのをするのはあのクソッタレ野郎だけでじゅうぶんだもんね?


「亡霊顔で接客すんじゃねィ、客が逃げらァ」


「‥‥‥」


のり子さんに頼んで少し休憩をもらって少しは調子を取り戻せたかなと思って売り場に戻れば、沖田総悟が私を見てしっしっと追い出すような手振りで私を追い出そうとした。


「じゃー悪魔も接客すんな」


「"Let's share POCKY!"」


「おいそれ二宮か、悪魔繋がりでポッキーのCMの二宮○也か」


「"分け合うなんて馬鹿馬鹿しい"」


「黙ってポッキーよこせ」


「"分け合う、か‥"」


「おいィイ!それポッキーじゃなくて店のコロッケだろォオがァア!」


CMの台詞を忠実にマネする沖田総悟、安心しろそんなことしなくてもあんたは悪魔だよ、悪魔も認めるブラックデビルだよ。


「あんたいつまでいるの?もう3時過ぎてるけど」


CMごっこに付き合ったらまた疲れた、エプロンをつけながら時間を確認するとすでに3時半。史上最長だ、こんなにヤツがここにいるのは。


「だから言ったろィ、俺ァ今日ここに泊まる勢いでいるんでィ」


だるそうにあくびをする沖田総悟。いや、言ってねぇよ。





「‥暇だね、」


「亡霊がいるからでィ」


「悪魔もだろ」


午後の店番は果てしなく暇だった。いつもなら寺子屋帰りの子供たちがとっくに来てる時間なのに、今日はまだひとりも来ていない。おかしいなー、それに沖田総悟は帰らないから店番が窮屈なのだ。ただでさえ暇なのに‥!


「‥‥‥」


本人は腕を頭の後ろで組み、暇そうにガムを噛んでいる。くっちゃくちゃうるせー。ていうか仕事中だよねあんた。


「‥‥‥」


でもそう言っても無駄&暴言が突き刺さることは分かっているので黙っておこう。私はレジの前で雑誌を読んで時間を潰すことにした。最近はわりと忙しかったからここで時間を潰すことはなかったからすごい久しぶりだ。


「おい亡霊」


「黙れ悪魔。ていうかそろそろ終わろうよこの呼び方」


「お前が止めたらやめてやらァ」


「嘘にしか聞こえないからあんたから止めて証明しろ」


雑誌から目は離さないまま、あーこの浴衣かわいいなぁと思いながら沖田総悟をかわす。へッ、私もだんだんヤツと張り合えるメンタルになってきた、ざまあみやがれ!


「あんたの名前、何だっけかィ?」


「は?」


唐突すぎる質問に思わず雑誌から顔をあげて沖田総悟の方を見てしまった。
な、名前?


「えーと、便盗子(べん とうこ)だっけ?」


「何その当て字。便盗んだ子的な?」


「何だよそれ気持ち悪ィな」


「言ったのお前ぇえ!」


ていうかせめて"便"じゃなくて"弁"だろ、


「藤堂マナ、覚えた?」


「藤堂マナ、」


改めて言うのもおかしいけど、変な名前で呼ばれるのは御免なので自分の名前を教えた。沖田総悟は私の名前を小さな声で呟いた、そして何やら意味ありげなニュアンスでふーんと頷いた。何だその顔、言っとくけど本名だからね!


「藤堂マナ、藤堂マナ‥」


それから沖田総悟はまるで呪文を唱えるように私の名前を口にし始めた。


「ちょっと、さっきから人の名前言い過ぎ」


「藤堂マナ、」


「聞いてる?」


「藤堂マナ、藤堂マナ」


「‥‥‥」


何を言ってもそう返してくるヤツ。そう何回も言われると恥ずかしくなってくる、しかもいままでメス豚とか亡霊とか普通に呼んでくれたためしがない沖田総悟が言っているのだからなおさらである。


「藤堂マナ、マナ藤堂、藤堂マナ‥」


店内のBGMかのように流れる私の名前。さっきよりずっと窮屈になったこの空気に私は耐えれなくなって、


「うるさい!名前呼ぶな!」


と立ち上がって持っていた雑誌をカウンターにバァアンと叩きつけた。そんな私を見て沖田総悟はニヤリと笑って、


「あーあ残念だなぁ、せっかく名前で呼べるチャンスなのになぁ、名前がいやなら何て呼べばいいんだろうなぁ?」


とわざとらしくため息までつく始末。


「(‥はっ!まさか、作戦!?)」


鬱陶しくなるまで名前を呼ばせて、キレた私から名前を呼ぶという選択枝を自ら無くさせる作戦か!


「まぁそこまで言うなら仕方ないかァ、残念だけどねェ」


「‥‥っ〜!」


悪魔だ、本物の悪魔がここにいる。


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