困ったときは助け合い
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「もう上がったら?」


その日もお昼のピークを越えて、すっかり静かになった店内。レジに立つ私とカウンターの端でパイプ椅子に腰かける沖田総悟。いつもならピークが終わったらさっさと帰るのに、今日は椅子から立ち上がる気配もない。


最近は指もだいぶ治ってきて前より生活も仕事もしやすくなった。相変わらず沖田総悟はおばちゃんたちの人気者で、今日もお弁当と味噌汁のセットがかなり売れた。


「‥チクショー、世の中見た目かよ」


本当は認めたくないけどこの男は私よりお弁当を売るのが上手い、売り上げのお金を数えながら思った。私、ひとりでこんなに稼いだことない。


「なんか言ったかー?」


「‥別に。ていうかさっきも言ったけど帰らなくていいわけ?てか帰ってよ」


数えたお札をレジに戻し、時計を見て時間を確認した。もうすぐ2時だ、おやつ時にやってくる子供たちのコロッケが残っているかショーケースを覗く。


「帰ったら昨日のビル打ち壊しの始末書書かされるんでィ、まだ帰らねェ」


「今すぐ帰れ」


沖田総悟に手でシッシッと払う仕草をすれば中指を立てられた。うぜぇ‥折りたい激しく折りたいィイ!
ていうかビル打ち壊し!?あんた警察だよね、建設会社とかじゃないよね?



「今日は店が忙しくて抜けられなかったってことにしたいんでィ、協力しろ」


「はぁ?あんた仕事何だと思ってんの?警察官なら市民の安全のために働けよバカ」


「ブヒブヒうるせぇなー。黙ってコロッケでも揚げてろィ、やけどしまくることを祈る」


「お前を揚げたろか、丸焦げになるまで揚げて売り物になれないまま捨てたろか」


「上等でィ。お前を吊るして炙りながら焼き豚実演販売してやらァ、体張ったくせに弁当ばっか売れて惨めな思いしろィ」


「ギザウザス」


「黙れアウストラロピテクス」


‥キィィイイ!返しが半端なくウザいぞ、何でそんなペラペラと出てくるんだ。暴言製造マスィーンか、そうなのか。


沖田総悟はふわぁーと眠そうに欠伸をしながら、うとうとしている。まさか寝るつもりじゃないよね?


「マナ、八百屋行ってきてくれないかい?」


こいつが寝たらすぐに殴ってやろうとさりげなくスタンバッていると、店の奥からのり子さんが受話器を片手にやって来た。聞けば八百屋のおじさんの車が壊れたらしく配達に来れないらしい。


「発注した野菜、そんなに重くないはずだから頼むよ」


総悟くんはもう帰るだろう?と確認するのり子さんに沖田総悟は、


「マナさんが行くなら店番しますよ」


とニッコリ微笑んだ。‥マナさん、だと!?
いつからそんな呼び方してたっけェエ!?さっきまで焼き豚とか言ってただろ。名前なんて初めて言っただろ、不自然すぎるんだよ!
ていうか何そのしゃべり方。台詞だけ聞いたらただの優しい青年じゃねーか、ムカつく。


「それは助かるわ、じゃあマナお願いね!八百屋さんに伝えとくから」


これじゃあ沖田総悟が親切にしたみたいじゃん、私がお使い行ったら確実サボる、寝る、コロッケ盗み食いする!行きたくねェエ!


「あんた猫被るの得意だね」


嫌みをたっぷり含んだ口調で言いながら、仕方ないのでエプロンをほどく。あー本当行きたくない、沖田総悟の思うがままの状況がもうすぐ出来上がりなのだから。


「ま、おめーみたいな豚は猫被んのは難しそうだもんなァ」


「そういうことじゃないわ!あんた絶対サボるでしょ、寝るでしょ?」


いちいち悪口で返さないと気が済まないのかこの男は。それに乗っかる私もって話だけど。


「当たり前でィ、俺はサボりの総悟でさァ」


「眠りの小五郎みたいに言うな、それただのダメ人間だから」


相変わらずパイプ椅子で暇そうにする沖田総悟を横目に三角巾とエプロンをたたむ。
店の奥にあるお使い用のカバンと財布を持ち、のり子さんに一言声をかけた。


「頼むね、気を付けるんだよ」


お弁当のおかずに入れる煮物を作りながらのり子さんに見送られ、私は店を出た。


裏口から出て、わざと店の前を通ってみると沖田総悟は早速クリームコロッケをショーケースから出していた。


やっぱりそうかァア!ていうかあいつ既に片手にコーンコロッケ持ってるゥウ!


「あ、」


私の殺気に気づいたのか沖田総悟がこちらを見た。バカみたいにモグモグ口を動かしている、コロッケ詰まらせてしまえ。




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