男は皆、冒険好き
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「埋蔵金?」


「「「しーーっ!」」」


慌てて三人が同時に人差し指を口の前に当てたので、咄嗟に口をおさえた。


「マナねぇちゃん、声でけーよ!」


「ごめんごめん」


佐吉がため息混じりに呆れている。4人でスーパーを出たのは今から15分ほど前、今は近くの公園のベンチで先ほど三人が言っていた"宝"の話をしているところである。


「埋蔵金って‥それ本当なの?」


カリカリ君(ソーダ味)にかぶりつきながら、さっきより小声で三人に問いかける。しゃりしゃり、甘く冷たいそれが口の中で溶けていく。


埋蔵金って、あんたらが見つけられるんだったらとっくに他の大人が見つけてるだろうに。たぶんガラクタか何かがこの子たちには埋蔵金に見えたんだろう、子供のときってそういう見つけると嬉しくなるんだよね。割れたガラスの破片とかツルツルした石とか。


分かるよーうん。


三人には悪いが私は信じていなかった。しゃり、カリカリ君をまた一口。


「まじだよ!まだだれも見つけてないから俺たちが、だいちはっけんしゃだよ!」


「一平、だいいちね。第一発見者」


スーパーで三人の中で一番カゴにお菓子を入れた一平は右手に麩菓子、左手に饅頭をつかんでいる。10歳でそのお菓子のチョイス、じじいか。


「で、どこで見つけたの?その埋蔵金とやらは」


信じてはいないけど、聞くだけ聞こうと思って三人に尋ねる。


「東公園の裏にある山」


龍之介が慎重そうに小声で私に耳打ちした。
東公園、江戸の外れの人通りが少ない場所にぽつんとある公園で、公園といっても遊具などはなく、小さな敷地に古いベンチがあるだけ。私は何回か通ったことがあるだけだし、人がいるところもあまり見ない。それに、


「山?あそこ立ち入り禁止じゃん」


公園の奥に立てられている山への"立ち入り禁止"の看板を思い出す。とても深い山で危ないらしい、カラスが鳴いているのを通る度に不気味に思った記憶がある。


「だからだよ!だれかが宝をひとりじめしてんだ、おれはそれをとりもどす」


佐吉がベンチから立ち上がって勇者のような台詞を口にした。うんうんと頷く他二人の間で、私は一人シラケながらカリカリ君の最後の一口を食べた。


「取り戻すって、安倍総理かよ」


「らいしゅうのきんよう、寺子屋から帰ったらここに集合な!」


「「アイアイサー!」」


私を無視して勝手に宝探しの予定を進める三人。本当に行く気なのかな、ぜったい危ないよそれ。安倍さんも反対するよねこれは。


「ねぇ、止めときなよ。山で迷子になったらどうするの?」


ベンチの周りにしゃがみこんで、枝で作戦を地面に書く三人の頭をカリカリ君の棒でつつく。


「大丈夫、目印に小石を落としてくんだ!」


「あーヘンゼルとグレーテル的な?」


さすが龍之介はちゃんと考えてる、感心するところじゃないけど。


「朝から行くから暗くなる前にかえれる、それにもう一回山に入ってるから迷わねーもん」


「マナねぇちゃんも行こうよ、山分けのあまりあげるからさ」


「何であまり?4等分せんかい」


‥龍之介に比べて佐吉と一平は相変わらずだ、分かっていたけど。


「ねぇーマナねぇちゃんも行こー」


「行くわけないでしょ、店番あるし」


三人がえぇーと不満げに私を見る。店暇じゃん、と呟いた佐吉の頭を軽く叩いてやった。


「大人の言うことは素直に聞きなさい、じゃないとコロッケ値上げすっから」


店番あるしそろそろ帰るわ、と立ち上がる私に三人はつまらなさそうな表情でじゃあなーと別れを告げた。


「あの三人、普通に行きそうだなぁ」


お店までの帰り道、ふと出た言葉は街の音に埋もれていった。


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