世界の中心じゃないけど愛を叫ぶ >※沖田視点 アドレス帳に入っているあいつの番号を押そうか迷った。ふと思い立って観覧車へ誘い、変に意識して気持ち悪くなってるあいつを乗せたはいいが、今度は俺が気持ち悪いほど女々しくなっていた。あいつが怒ってんじゃねぇかとか、どう言えば傷つけねぇかとか。今までは気にもしなかったことばかりが気がかりだった。 "藤堂マナ 090-‥" 俺はずっと甘えていた。藤堂との関係に慣れてしまってお互い何だかんだ言っても、きっとこのまま過ごしていくんだろうと。勝手にそう思い込んで、そう信じていた。その空気が心地よくて気づかなかった。 あいつが、俺たちの関係を変えようとしていることに。不器用に、手一杯に、下手くそなりに。俺が甘えていた現実を、逃げていた目の前のことを変えようとしていた。 それが、可笑しくもあり怖くもあった。このままの俺たちでいいじゃねぇかって、言い訳を作ってそれに固執していた。 なァ、藤堂。今まで俺はお前を馬鹿にしてきたけど、俺が知らなかっただけで本当は色々考えてたんだな。その空っぽの脳みそで俺のこととか自分の感情を。馬鹿なのは俺の方かもしれねぇや、 「も、しもし」 焦りじゃないが、ここで言わねぇと俺は本当に馬鹿だと自分に言い聞かせて発信ボタンを押した。電話一本にも迷う自分が情けない。しばらくしたあと藤堂のどもった声が聞こえて、たったそれだけなのに体が痺れるような心地よい痛みが走った。なんでィ、Mが好みそうなこの痛み。早くどっかいけ、俺はいまそれどころじゃねぇんでさァ。むず痒い感覚を感じながら、少し強く携帯を握った。 「観覧車降りるまでこっち見んじゃねェぞ」 きっと今の俺は誰よりもひでぇ顔してる。夏祭りのコンテストに出そうとしてやめた藤堂のすっぴん(綾瀬は○かではない方)には負けるが。手汗が尋常じゃねェ。人に自分の気持ちを伝えるってこんなに緊張するモンか、こんなに焦るモンか? 「沖田、さっきからおかしいよ」 俺の言動を怪しんで藤堂の声が疑い深くなっている。もういつもの余裕なんてお前にかっさらわれてんでィ、 「うっせー、黙って聞いてろィ」 今から俺がお前に言うことを聞いてくれ。お前の返事とか気持ちとか、そういうのは今いらねぇから。ただ俺の話を聞いてくれ、 不器用で口が悪くて感情がすぐ顔に出るうるせェ女に、残念ながら惚れちまった男のカッコ悪い言い分を。 「俺、前言っただろ‥お前に京行けよって」 「あれ、取り消す」 「行くな藤堂」 自分の気持ちを思うがままに口にだした。さっきまでの迷いが吹っ切れたように溢れる感情を藤堂に伝えた。でも、嫌われるかもとかもっと言葉を選んでとかそんなことをする余裕はやっぱりねェ。観覧車で少し先を行く藤堂の背中を見上げながら、あいつが会話に着いてこれていないのが分かったけど、俺は何もできなかった。誰よりも手一杯で自分の気持ちを言葉にするのが精一杯だったから。 あぁ、俺はいつのまにこんな小心者になったんだろうか。今まで腐るほど見てきたあいつの顔が今さら直視できなくなって、あいつの憙怒哀楽に一喜一憂するようになって、どこにも行かずそばにいてほしいと思うようになった。 でもそれを言葉にして藤堂に言うのは難しい、だからいつもの調子で自分の感情を隠すしかねェ。 「お前がいなくなったら、俺ァ誰の指折ればいいんでィ」 「お前がいなくなったら、俺のかきくけこロッケ、誰が毒味すんでぃ」 「‥なぁ藤堂、置いていかれる俺ァどうすりゃあいいんでィ」 最後に出た弱々しい台詞は、何も飾らないまっさらな俺の気持ちだった。置いていかれるなんてそんなひでェこと、藤堂はしてねぇしただの俺の女々しい考え方かもしれない。 でも理不尽じゃねーか、やっと俺たちお互いのことを理解して認め合えるくらいまで来たのにそれを捨ててお前は行っちまうんだろ? 藤堂の京行きに背中を押したはずなのに、俺は自分の感情を抑えられず藤堂を惑わすようなことを言ってしまっている。かっこ悪、こんなの俺じゃねぇや。 いや、実はこれがホントの俺なのかもしれない。何考えてんのか解らないと言われることが多い俺が、こんなにも分かりやすく感情を剥き出しに喜怒哀楽を素直に出せる相手が、 「‥沖田?」 一番あり得ねぇと思っていた憎きこの女、なのかもしれねぇ。からかうことも(人によってはドS)、かっこつけることも、逆にカッコ悪いことも、全部こいつには見せられる。そして俺もこいつのいろんな表情が見たい。どんなことで笑うのか、何を見て涙を流すのか。何を愛し、誰を憎み、どんな世界を見ているのか。 でもそんなこと本人には言ってやらねぇ。言ってやるもんか。 ‥その前にそんな恥ずかしいこと、俺が言えねーや。でも藤堂は分かってくれるよな、 「‥俺ァ、お前のこと世界で一番嫌いだ、ここまでドSを苦しめる女はじめてでィ」 「わたしは、宇宙一嫌いだコノヤロー」 憎まれ口にこそ、俺のお前に対する気持ちがこもってるってこと。甘く囁く台詞なんかなくても、 「沖田の、意気地無し」 「乳なしよりかはマシでィ」 「ぐっ‥お前ぶっ殺す!!マジ千切り確定!」 俺たちはきっと大丈夫だろう。お互い口が悪いことも性格がひん曲がってることも分かってんなら、今さら焦って素直にならなくたって気持ちを上手く伝えようとしなくたっていいじゃねーか。 焦らなくても、離れていても、きっとお前はまた戻ってくるだろう? 「(そのときまでに、告白の言葉ひとつでも考えといてやらァ)」 だから、頑張ってこいよ。俺のことなんか考える暇もないくらい。俺も考えてやんねーから、仕事バリバリこなしてやるから。 さっきまで行ってほしくないと弱音を吐いた自分を後悔はしていない。あれはあれで本心だから、ただここで待ってるやつがいることを知っていてほしい。忙しくて思い出す暇がなくても、心の隅にでもいいから置いておいてほしい。それくらいしか、できねぇから。 「‥‥っ、」 切れているわけでもないのに、携帯の向こうが無音だったのでふと上を見上げると、こちらを見ている藤堂と目が合った。 ‥こっち見んなっつったろ、馬鹿。 目を見開いて驚いた俺とは逆に、優しく目を細めて笑う藤堂。あぁ、くそ‥何であんな馬鹿女に俺の心臓は反応してんでィ、うるさい。 なんとなく切れない携帯からは何も聞こえない。どくっ、どくっと大袈裟なくらい弾む心臓の音が喉の奥から迫ってくるのを感じながら、紛らわすように外の景色を見る。 とてもじゃねーが、今あいつを見れる余裕はなかった。このまま観覧車がずっと回り続けていればいい。 ‥それでやっぱり、あいつが京に行かなければいいんでィ なんて女々しいことはここに置いていくべきなんだろうけど。まだ観覧車が回ってるうちはカッコ悪い俺のままで、自分の感情に素直になろうと思います。沖田総語‥アレ作文? ‥‥‥ ‥‥ ‥ 同じ頃、屯所では‥ 「ッヘクショイ!」 「何だザキ、風邪でも引いたか?」 「いやー、大丈夫だと思いますけど」 「もし風邪引いときはケツにネギ刺すと良いぞ!」 「‥‥(姐さんにさせられたのか)」 ※ふたりの電話番号交換について お気づきの方もいるかと思いますが、既に67話で沖田はヒロインの番号を知っています。しかし「あれは山崎に調べさせてゲットした番号だから何か気に食わねェんでさァ。何かあんぱんくせェし」という本人の主張によりきちんとお互いの番号交換をする描写を書きました。ちなみに山崎はのりこさん経由で番号ゲットしてます。 前へ 次へ back |