震えたのはきっと心
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「おきた、がいない‥」


ざわざわと胸が騒いでいるのを感じながら蜂蜜色のあの頭を探すけどやっぱり沖田はいなくて。それでも周りからは笑い声や子供の声や陽気な音楽が聞こえて相変わらず賑やかで、私の不安な心は存在すらできないような楽しい空間が広がっている。まるで最初から沖田なんていなかったかのように、


「お、おきたー?」


それでも沖田はどこかにいるはずなので、とりあえず動いてみる。きっとそんなに離れていないはずだしすぐ見つかるよ、どうせ急にトイレ行きたいとかそういうのでいなくなったんだろう、まったく世話が焼けるなと思いながらきょろきょろ辺りを歩き回った。


「‥‥‥」


だが沖田は一向に見つからない。人混みをかきわけて探し続けること5分、焦りだけが募っていく。もうはぐれたレストラン前からずいぶん離れたところまで来てしまった。もしかしたら沖田も私を探してくれているかもしれないから一旦はぐれた場所まで戻った方がいいかな?


「‥‥‥」


レストラン前に戻りその周辺を探すこと5分、やっぱり沖田はいない。こういうときのための携帯電話があるというのに私は沖田の番号を知らない。というか私の携帯には沖田の情報なんてこれっぽっちも入っていない。「だって変なウイルス持ってそうじゃない?それで携帯が故障とかしたら嫌だし!」と思っていた過去の自分を殴りにいきたい。くっそー!どうすればいいんだアァァア!


駅にある「○○で待ってます」と伝言を書き残せる伝言板なんてないし、かといってこのまま闇雲に動き回りながら沖田を探すのも無理だ。周りは楽しそうに遊園地を満喫している、あぁ私も楽しみたいよ!まだジェットコースターしか乗ってないもん!周りの楽しそうな雰囲気に沖田がいない焦りが混ざり合う。さっきまで隣にいた沖田がいないだけで体の半分に中身が入っていないように感じて、ここに来て冷たい空気を初めて感じて行き場のない手が冷えていく。


‥私、沖田がいないだけでこんなに不安になってる。落ち着こうと思っても心は従ってくれない、焦りだけが募っていく。


あんなに楽しいとはしゃいでいた自分はもうこれっぽっちもいない。そして気づいた、沖田がいたから楽しいと思えていたことを。遊園地だからってはしゃいでたけど、沖田といるからこそ意味があるって。私の感情は沖田に繋がってるんだって。


自分が気づかなかった自分を感じながら沖田を思い浮かべる、唇をぎゅっと紡いで空を見上げた。


「あぁ‥沖田どこにい‥「大江戸商店街からお越しの藤堂マナさん、藤堂マナさんお連れ様がお待ちです。コーヒーカップ横にあります案内所までお越しください」


「‥‥はいっ?」


ぼそりとこぼれた心の声が大きなアナウンスの声に消された、と思ったのもつかの間なぜか私の名前が呼ばれている。藤堂マナ、って私じゃん!そうです、大江戸商店街から来ました!


「‥ってえぇぇえぇぇええ!」


何で私迷子みたいになってんだアァァア!お連れ様って沖田だよね!何で私アナウンスされてんの!!


‥‥‥


‥‥





「お、」


「お、じゃねーよ!何でこんなとこにいるわけ!?勝手にはぐれるな!」


アナウンスに従い慌てて案内所まで行けば沖田が携帯をいじりながら立っていた。私に気づき呑気に携帯をしまう。こ、こいつ‥何で普通に待ち合わせみたいになってんの?


「はぐれたのはおめーだろィ、俺がジュース買いに行った間にどこほっつき歩いてたんでさァ?」


「ジュ、ジュース!?」


面倒臭そうに頭をかきながらため息をはく沖田。そんな沖田に私は唖然、ジュースって!レストラン出たばっかでジュース買うか普通!それにちゃんと相手が聞いてなかったら勝手に行ったようなもんだろーが!


「オメーがアトラクションの話しすぎてて聞いてなかったんだろィ、」


「はぁ!?よく言うわ、私がどれだけ探したか‥なのにジュースってバッカじゃないの!?‥このバカ!バカ!タコ野郎!」


私の焦りが空回って行き場のない気持ちが悔しい。私が沖田を思って探していた時間、沖田はジュースをぐびぐび飲んでたのかと思うとさらに悔しい‥というか切ない。私ばっかり、沖田はいつだって平気そうで余裕で。私ばっかり、沖田のことを考えている気がして悲しい。


「探したのか、俺のこと」


「‥うっさい、しゃべるなバカ」


沖田をうまく見れなくて俯く。黒くどろどろしたものが心に広がって素直な言葉は埋もれていってしまう。そうだよ、心配して探してたんだよ。でも悔しい、言えない。きっと軽くあしらわれるだけ。沖田のそういう部分だけは星の数より見てきたからわかる。


「藤堂、」


目の前の沖田が一歩近づいてきた。私は俯いたまま、沖田の声を頭の上で受けとる。あぁ、いまさらどんな顔で沖田を見ればいいんだろう。


「俺も探してた、ジュース飲んでから」


「…いやいや!先に探せよ!」


食い気味に突っ込みながら顔をあげれば沖田とばっちり目が合った。心臓が小さく跳ねる。


「‥‥‥‥」


さっきは気づかなかったけど、沖田の額にはうっすら汗が滲んでいて。もしかしてアナウンスする前に彼なりに探したのかなって、そんなポーカーフェイスしてるけど内心は再会できて安心してるかなって。


‥そして安心してるのは、私もだって。


「勘違いすんな、この汗はジュース(おしるこ)イッキのみしたからでィ」


「くっ‥死ね!マジ死ね!おしるこ喉に詰まらせて死ね!」


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