わたしが猫で、あいつが犬で
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「うわぁ‥!」


大江戸ネズミーランドから移動し、やって来たのは大江戸遊園地。ネズミーランドほど大規模なテーマパークではないものの、江戸で人気の遊園地。そして私がここへ来るのはなにげ初めてだったりする。さらに沖田が自ら提案して連れてきてくれた嬉しさが後押しして私はまるで子供のように目を輝かせていた。大江戸ネズミーランドは残念だけど(そして自分のせいだけど)ここはここで良いじゃないか(まだ遊園地入ったばっかだけど)。


「すごい、観覧車とかもあるんだ‥!」


私が大好きなジェットコースターはもちろんメリーゴーランドや観覧車など想像していたより園内のクオリティーが高い内容に、遊園地=ネズミーランドだった私の考えは見事に払拭された。超楽しそうじゃん!もっと早く来ればよかった!


「は?お前観覧車乗りてェのか?あれはな、馬鹿な若者がキスするため‥ンガッ!」


楽しそうな園内を見渡す私の隣で沖田がさらりととんでもんないことを言おうとしたので私は思わずグーで沖田の頭に一発。


「ってェな‥何すんでィ、暴力女」


「うっさい変態男!きっ‥きすとか、そういうこと言うんじゃねーバカヤローめが!」


そういうラブ系はデリケートな時期だろうが、とくに私が!なのに何で沖田はそんなに‥恥ずかしげもなく言えるんだ!キ、キスなんて‥!


ていうか変に意識してる自分の方がもっと恥ずかしいし気持ち悪いんじゃね?


「観覧車、乗るか?」


「‥ノーセンキュー!」


ドキドキする自分を落ち着かせていると沖田がこちらを見て観覧車に乗るか提案してきた。お前が今キスとか言ったばっかなのに乗れるわけねーだろーがァア!何?何もなかったように今初めて観覧車って言葉出しましたけど?みたいな感じになってんの?沖田のせいで観覧車に変なイメージがついたじゃん、これから純粋に楽しめなくなるじゃん。


―――


――





「いっやあ、やっぱりジェットコースターは最高だね!もっかい乗りたい!」


「‥もう三回目だろィ、いい加減懲りろ」


渋る沖田を強引に誘い最初に乗ったのはジェットコースター。元々ジェットコースターが好きだし、久々ということもあって私のテンションは最高潮。チケットを忘れて落ち込んでいたことなんでジェットコースターが落下するのと同時に忘れてしまった。反面、沖田はあまり楽しそうじゃないけど。


ワクワクが止まらない私が髪がボサボサなままもう一度乗ろうとすると、のろのろと座席から降りた沖田に腕を捕まれた。


「っ、おきた‥?」


ジェットコースターが苦手とか言いつつ二回目も乗ってくれたので三回目も行こうと思っていた私はそこで動きを止める。沖田の冷たい手が私の手をつかんでいるから。ハッとしたのもつかの間、またもドキドキが降ってきて鼓動を早める。ジェットコースターで頂上までゆっくり上がるときのドキドキ感じゃない。もっと‥胸の奥が疼くようなピリピリと身体中がおかしくなってしまうようなドキドキ。ジェットコースターで忘れかけていた感覚が蘇る。


「そろそろ飯食う時間だろィ、」


「‥う、ん」


捕まれた手から熱が伝わる中、チラリと見上げると苦手なジェットコースターに二回も乗った沖田は心なしか余裕がなさそうに見えて、申し訳なさとドキドキと部屋とYシャツと私。


「ふざけてねぇで少しは心配しろィ、」


「こっ、心を読むな馬鹿!」


顔が熱くなっていくのが悔しい。ていうかいつまで手掴んでるんだ!職業病か?私は犯人じゃないし、そんな簡単に逃げないよ?


「藤堂、何か食いたいモンあるか」


「うーん‥カレー!」


やっと手を離してくれた沖田とジェットコースター乗り場から出て園内をゆっくり歩きながら昼食に何を食べるか考える。遊園地内にはレストランはもちろんワゴンで軽食も売っているらしい。昼時ということもあってか色んなところから良い匂いがする。思えば今日は何も口にしていないしジェットコースターで思いっきり叫んだのでガツンとしたものが食べたい。


「じゃあ、あの店入るか」


「‥え、」


私のカレー案に沖田が少し先にあるレストランを指差した。たしかにあのレストランならカレーはありそうだけど‥私はうんと頷けなかった。だって、


「沖田は?カレーで良いの?」


前にお父さんとお母さんが病院で久々に会って、気を利かせた沖田が私を連れてご飯へ行ったとき同じことを聞かれて、でも私が食べたいものは却下されたことがある(98話参照)。だから今回も同じ流れになると思ってたのに。沖田が私の食べたいものを優先してる?


「何でィ、俺がカレー食っちゃいけねぇのか」


「違うけど、何か‥その沖田らしくなくない?」


私を優先してくれる優しい沖田が沖田らしくないなんて喧嘩を売っているような話だけど、でも実際本当にらしくないからしょうがない。


「ジェットコースター乗って、頭のネジ飛んでった?」


「鼻水とよだれ飛ばしてたやつに言われたかねェ」


「とっ、飛ばしてないわ!」


適当なことばっか言うな!と怒る私を適当に沖田があしらう。何よ、今にもゲロ出しそうな真っ青な表情してたくせに!写メっておけばよかった!


「お待たせしました、カレーセットおふたつです」


結局本当に沖田は私のカレー案をとってレストランへ入店。そしてレストランではお互いカレーを食べるというはたから見たら仲が良い状況になりつつも美味しく昼食を食べた。もしかしたら沖田もカレーが食べたかったのかな。


「ねぇねぇ、お化け屋敷こっから近いから行こうよ」


昼食を終えてレストランを出ると園内のマップを片手に私たちは次に向かうアトラクションを何にするか決めていた。昼過ぎということもあって混雑はピークで園内はたくさんの人たちで賑わっている。


「ねぇねぇ、沖‥」


もう一度、お化け屋敷へ行きたいと言おうと沖田のいる隣を見ると、


「え、沖田?」


沖田がいるはずのそこに沖田はいなかった。おかしいと思い左右前後ろに振り返って沖田を探すけど、彼はどこにも見当たらない。え、レストラン出たばっかなのに。さっきまでここにいたのに。どこ行ったの?


賑やかな声が飛び交う中、急に一人になった私はマップ片手にそこで立ち尽くすしかなくて。


「これ、沖田とはぐれた‥?」


小さな独り言は真上を通るジェットコースターの大きな音に消された。


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