サディスティック星の魔法使い
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「‥どうすんでィ」


「‥ど、どうしましょう」


夢の国に入る直前、チケットを家に忘れたことに気づき、まさかの入園ができない状況になってしまった私たち‥私のせいだけど。大江戸ネズミーランドで遊べなくなってしまったことはもちろん、沖田とのデートも台無しになってしまったことに私はどうしようもない焦りと申し訳なさを感じていた。


キャッキャッ楽しそうな声でどんどん大江戸ネズミーランドへ入っていく客を横目に私と沖田は立ったまま。気まずい空気が私たちをどんよりさせる。


私が忘れたせいでこんなことになってしまった。あぁ、何でちゃんと巾着にチケット入れたこと確認しなかったかな!準備に夢中になっていたからって肝心のデート場所に入れないようじゃ元も子もないじゃないか。せっかく、せっかく沖田が誘ってくれたのに。京へ行く前に思い出が作れると思ったのに。沖田と一緒に楽しもうって思ってたのに。


考えれば考えるほど惨めになって、何も出来ないまま自分を責めることしかできないことも悔しくて。


お互い無言のまま立ち尽くすこと数分、柱にもたれていた沖田が離れて少し遠くの方を見た。


「オメー遊園地で何が好きなんでィ、」


「え‥」


急に何だろうと思いながら沖田が見ている方を見たけど質問の意味が分かるようなものはなく、ただ青い冬空が広がっていて。遊園地で何が好きって‥まさか入れないからここで遊園地トークするの?いやいやそれはいくらなんでも悲しすぎるよ。カレー屋の前でルーの匂いだけで白米食べるようなモンだよ。私が言えることじゃないけど満足感ないよ。


「沖田、どういう意味‥?」


あぁカレー食べたくなってきたな、と思いながら沖田を見上げる(朝食を食べていないので尚更)。


「ここ(大江戸ネズミーランド)よりクオリティー低くても文句言うなよ」


「え、何が?」


クオリティー?文句?沖田の言っている意味が分からないでいると、沖田が歩き始めた。え、ちょ‥どこ行くの?


「早くしねぇと置いてくぞメス豚」


「メ、メス豚言うな!どこ行くの!?」


とりあえず沖田のあとを追うように歩き始める。もしかして沖田、私がチケット忘れたから馬鹿馬鹿しくなって怒った?もう帰るんでィとかそういうの?もしそうだったらどうしよう、私のせいで気まずくなったまま別れることになったら‥


こんな状況を作ってしまったのは自分なのに、焦りばかりが募って胸がざわつく。歩いている沖田の背中が少し遠い。


「遅ェ、行かねェのか大江戸遊園地」


「‥お、大江戸遊園地‥?」


ふと振り返った沖田は私との開いた距離に眉をひそませている。早く来いよ、というような表情にも見えて。私は沖田の言った言葉とその表情の意味を必死に考えていた。そして分かった、沖田が今から大江戸遊園地に行こうとしていることを。


「まだ午前中なのに帰るのもったいねェだろ、行かねェのか」


「‥い、行く!」


目をそらしながらふてくされ気味に大江戸遊園地へ行くか行かないかを聞いてくる沖田に、私の胸はぎゅうっと押し潰されそうだった。それは思わず胸の辺りへ自分の手を寄せてしまうほど、ドクドクと心臓の鼓動が頭の中で鳴り響いてしまうほどで。


沖田が大江戸遊園地へ連れていってくれることに表現しきれない感情がたくさん溢れて、私は立っているのがやっとなほどその感情たちに心を揺さぶられていた。怒ってるんじゃないかとか、自分のせいでとか、マイナスなことを考えている間、沖田は全く違うことを考えていてくれた。大江戸ネズミーランドはもちろん、遊園地は好きじゃないって言ってたのに。自分から、提案してくれた。


正直、大江戸ネズミーランドへ行くときは勢い任せに行くと頷いた部分が少なからずあったけど、今の行くというのは完全に私の意思だ。大江戸ネズミーランドじゃなくてもいい、沖田とだったらどこでも。そう心の中で当たり前のように思っていた。だから沖田の気持ちやどういう思いで誘ってくれたのかを考えたら嬉しくて嬉しくて、あぁ何でだろう‥泣きそうだ。


ねぇ、沖田。きっと沖田は答えてくれないだろうけど、私のためにしてくれたって‥少し自惚れても良いかな。


「何でィ、泣きそうな顔して」


「ううん‥ありがと」


「‥おう、」


小走りで沖田のもとへ駆け寄ると、沖田が歩き始めたので私も並んで歩いた。陽気な音楽が流れる夢の国からはどんどん離れていき、さっき来た道を私たちだけが戻っているのに全然悲しくないし寂しくない。


きっとそれは沖田という魔法にかかっているから。自分のキャラを無視してこんなクサくて恥ずかしい言葉が出てきてしまうほど、深く甘い魔法に。


「ねぇ、沖田‥京から帰ってきたら、また来ようよ」


歩きながら沖田にそんなことを提案してみた。チケット忘れた私が言えることじゃないけど、また沖田と来たい。


「気が向いたらな」


そう言った沖田はさっきと同じふてくされたような表情で。何よ、私が素直になってるんだから少しはあんたも素直になりなよ、なんて思いながら足元のアスファルトへ視線を移す。


「‥沖田って、素直じゃないとき変な顔になるよね」


まぁさっき気づいたんだけど。今日ここへ来るまで何度も見たその表情を思い出しながらふふふと笑えば、


「常に変な顔のやつに言われたくねェ」


とこれまた口を尖らせてそう言うのだった。それがおかしくって、楽しくて。フワフワした綿菓子のような甘くて軽い何かが心から飛び出しそうなドキドキ感に足取りは自然と軽くなる。


「私ジェットコースター乗りた‥「却下」


「えぇ!何で!?苦手なの?」


「オメーがウ○コ漏らしたらどうすんでィ」


「何を心配しとんじゃァァアァア!」


午前10時、まだまだ始まったばかりの私たちのデートを見守るかのように青く大きな空がどこまでも続いていた。




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