カワイイは作れる
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びりっ、


日めくりカレンダーをめくって出てきた数字は赤色。

「‥‥‥」


赤い数字、今日は日曜日。外は良い天気、お出掛け日和だ。


「(‥き、来てしまった‥!)」


そう、今日は日曜日でもお出掛け日和の良い天気でもある前に沖田と大江戸ネズミーランドへ遊びに行く日なのだ。約束してから2週間、沖田に恋をしていると認めて2週間、熟睡できた日は数えるくらいしかない私は今日、ついに沖田と‥デートというやつに、行く。


待ち合わせよりもずいぶんと前に目を覚ました私は食欲がなく、そのまま寝癖のついた髪を整え化粧を始めた。いつもはご飯山盛りで納豆ドバドバかけて食べてるけど今日はそれどころじゃない。


あぁ、どうしよう‥考えれば考えるほどドキドキしてしまう。2週間沖田に会うことはなかった。私からは会いにいく理由がなかったし、沖田は沖田でお店に来なかった。それでも心臓はうるさくて、今までの沖田をけなしていた毒舌な自分を思い出すとおぞましくて寒気がした。よくもあんな女のかけらもない言動してたなって。それで後悔しながらデートまで迫る時間を緊張しながら過ごすという体に悪い生活をしてきた。むしろここ2週間生きていられたのが奇跡なくらいである。


「あれ、化粧ってどうやってたっけ?」


目の前に広げた使い慣れたはずの化粧品たち、自分はいつもどれから使っていたか分からなかった。やべぇ、やべぇよ自分!末期じゃね?女なのに化粧の仕方忘れたとかやばくね?ていうか今日こそ気合い入れて化粧しなくちゃいけないのに何忘れてんだアァァア!やべーよ、寝不足の顔で大江戸ネズミーランド行ったらミ○キー逃げるよ、パレード止まるよ、ビッグサンダーマウンテン噴火するよ、マジやべーよ!


ワナワナと焦るも時間は迫っていく。沖田が家まで迎えに来てくれることになっているので、沖田を待たせるのだけはダメだよね。いやでも寝不足の顔でおはよう!とか言われても引くよね。


「‥どっちにしろ引かれるゥゥウゥウ!」


バンッと机を叩けば上に乗っていた化粧品たちが揺れた。とりあえず落ち着いて化粧を始めよう、初めてするわけじゃないんだからできるよ。I can do it!


ベースを肌に乗せて叩き込む、すると少し顔色が明るくなった。ファンデーションを乗せれば肌がツルツルに整って寝不足さは感じられなくなった。少しぎこちなく笑いながら頬の高い位置にチークを塗ってビューラー片手にまぶたを少し持ち上げる。


「‥‥‥」


時計の進む音だけが聞こえる室内で私は鏡を見ながら化粧を進めていく。すっぴん(綾瀬は○かではない方)から可愛らしい女の子へと変わっていくのを感じながらふと感じた。


「‥化粧って、楽しい」


今まで身だしなみの一部としてしていた化粧と、誰かに可愛いと思われたいという一心でひとつひとつの作業を丁寧に仕上げていく化粧とは道具は同じでも出来上がりがこんなに違う。どこがと聞かれれば分からないけど、いつもより女の子らしくなれ‥た気がする。


よし、あとは着物だ!と気合いを入れて鏡台から腰を上げた‥ときにふと鏡に何かが映っているのが見えた。


「…グッガイァヤァヤキァアア!」


「るせーなァ、どんだけ元気なんでィ」


何と私の後ろに沖田が立っていた。しかも今までここにいましたけど何か?フェイスで。ホラー映画じゃないんだからそんなふわっと出現すんなよ!そういう出現の仕方が許されるのはお店までだから。ここプライベートゾーンだから、一般民家だから。そしてあんた警察だから。


「‥つーかその化粧どうにかしろよ、デーモン閣下?鉄拳?樽美酒け「もう良いィイ!わかった!私が悪かったからもうやめてそれ以上言うな」


鏡越しに私の顔を見て眉をひそませる沖田。本気で可愛くなりたいと思いながらの化粧をその三人に例えられては可愛くなれていない証拠。だってあれ化粧ってレベルじゃないもん。いつもならここで沖田に言い返せるのに、今日の私は無理だった。とりあえずデーモン閣下および鉄拳さらに樽美酒研二フェイスから脱却するのが最優先だ。


「あれ、沖田髪切った?」


沖田を追い出そうと彼を見上げると、沖田の前髪が少し短くなっているのに気づいた。元々幼く見える顔がさらに幼く見える。


「うるせェ、40秒で支度しな」


「‥沖田、昨日ラピュタ見た?」


「フック船長と呼べィ」


「あ、そこは大江戸ネズミーランドのキャラ優先なのね。ヂブリの方の大きなお尻した年齢不詳アクティブ船長ではないのね」


新鮮な沖田をもう少し見たかったのに、ふいっと顔をそらされてしまったので沖田の短くなった前髪を見たのは本当に一瞬だった。ちぇっ、人の顔見といて自分は見せないなんて不公平だ。


「‥居間にいる」


「あ、うん」


部屋を出ていく前に沖田が立ち止まってこちらを振り向いた。鏡台に座っている私は鏡越しに沖田と目が合って、短い前髪の沖田は何だか可愛らしかった。


「前髪、切りすぎじゃない?」


「‥オンザマユゲが江戸っ子の流行りなんでィ」


言い返しながらもどこか悔しそうな沖田はそそくさと居間へ向かった。その表情すら可愛らしく見えて。


あぁ、沖田も今日のこと楽しみにして髪切ったのかななんて一瞬思った。


‥沖田に限ってそんなことあるとは思わないけど。でもそうかなって、その小さくて微かな可能性でさえも愛しく思えてしまうのが恋なんだろう。


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