すべて意味のあるもの
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「こ、こんにちはー」


午後2時、真選組屯所へやって来たは良いけど緊張が半端じゃない。京へ行く前に沖田へ‥あのー、自分の気持ちを‥えーっと、言うって決めたはずなのに、いざ本番を迎えると逃げ出したくなった。


だって私が沖田のことを、好きだなんて誰が想像した!?沖田に対してこんなにバクバク心臓がうるさくなっちゃって、他の人からのからかいもまともに返せず真に受けちゃって。


こんなの、私じゃないみたいだ。でもこのまま苦しいのは困るし、きっとこれが‥ラブ、ってやつなんだろう。認めたくないけど!めっちゃ認めたくないけどなクソッタレ!


いつの間に私は、こんな恋する乙女的なキャラになってしまったんだろう。


「あーい‥って何でィ、おめーかよ」


「うぉ、おっ、沖田!」


一人屯所の前であたふたしているとちんたら歩きながらやって来たのは沖田。こういうときに限って沖田。いつもは町中でサボっているはずの沖田。いつもなら山崎さんが出てくるはずのシーンで沖田。サブキャラ(山崎さん)の出番さえもしゃしゃり出る沖田。


「どんだけ俺に来て欲しくなかったんでィ」


「‥べ、べつに?珍しいと思っただけだし」


ほら、とすかさず持っている宅配用のお弁当を沖田に差し出す。とりあえずお弁当を渡してから話そう、お弁当が冷めても困るし。


「おい山崎、これ持ってけ」


沖田が屯所の方を向いて山崎さんを呼ぶと、どこにいたのか山崎さんはすぐに登場。いや‥どこにいたんだよ。まさかそこでずっとスタンバってた?何それ、宅配物を宅配とかサブキャラも良いとこだろ。


「これ代金ね、ご苦労様」


山崎さんはいつものように私にお金を渡すと軽々しくお弁当を持って屯所内に消えていった。


「パトカー乗ってくか」


「え?」


すると沖田がポケットからチャリンと鍵を出した。今までなら、パトカーに爆弾(助手席のみ)でも仕込んでんじゃないのかとか沖田の優しい言動にいちいち怪しんでいたけど、今の私はそれが辛かった。きっと彼は本心で私を送ってくれるつもりで、その優しさが、本当の沖田が胸を締め付けるから。だから私も疑ってかかったりしない。ありがとう、と素直に言えるのはまだ時間がかかるけど。


それに今なら、沖田は私の話を真剣に聞いてくれるかもしれない。からかうような内容でも、恥ずかしい台詞でも、もしかしたら受け止めてくれるかもしれない。


「パトカーも良いけど‥時間あるならさ、歩かない?」


「オメーのダイエットに協力しろってか」


「違うわ、つーか何で首輪持ってんの」


やれやれと頭をかく沖田はごそごそとポケットを漁り首輪を出した。当たり前にそれが入っているのが怖いんですけど。


「豚が逃げ出したら人様に迷惑だろィ」


「歩く気満々じゃねーか。ていうか何でペットの散歩みたいになってんの」


「ペットじゃねぇ!家畜でィ!」


「な、何で逆ギレ!?」


何かこういうの前にもあったよね?なんて思いながらも、沖田がポケットに鍵と首輪をしまってくれたので私たちは歩き始めた。


車が一台通るのがやっとの道は誰も歩いていなくて、静かな道はとても広く感じた。


「沖田、」


隣を歩く沖田は私と同じ歩幅で、横を少し見上げれば前を向く横顔。こんなに近い距離に、いまさら‥本当にいまさら緊張してしまう。


「あ?」


私の方を向いた沖田と目が合って、私は慌てて目をそらした。不自然なほど真っ直ぐ進行方向を見る私。気まずさマックス。


「何でィ、んな驚いた顔して」


「いや‥別に」


冷静を保とうと首を振りながら答える。何してんだ私!こんな、沖田を異性として意識した途端の自分気持ち悪いんだけど!やだやだ、いつもみたいにギャーギャーは言わなくても良いけど‥何かもっとこう、普通にできないかな自分んん!


このままじゃ、何も話せないまま普通に帰宅だよ。のり子さんにケツの割れ目みっつにされるよ。天人でもいないよ、そんな気持ち悪いケツのやつ。


沖田に気づかれないようにすぅーっと深呼吸して、自分を落ち着かせたあと私は拳をぎゅっと握った。


「あのさ、」


「あ?」


「‥に、二週間後に‥京行くことになった」


「‥‥そーかィ」


「‥‥‥」


これ会話になってるのかな。でもまぁ二語文だけど沖田にはちゃんと通じた。少し間が開いて返事が返ってきた。


でも、私が言いたいことはこれで終わりじゃない。


「それで、あの‥」


「?」


沖田がこちらを見る。私の緊張に気づいたのか不思議そうにこちらを見ている。


「あの‥いろいろ考えたんだ、けど」


「考えた?」


「‥えっと、あの‥私、沖田に指折られたじゃん?」


最初から好きとか何とか言うのはいくらなんでも気持ち悪いので、まずは『そういえばお前の印象マジでクッソ最悪だったよな作戦』を決行して、そこから徐々にいい感じの雰囲気に持っていこうと思い、同意を求めて沖田を見上げれば沖田が眉をひそめながらこちらを見た。


「あれはオメーが折ってくだせェって指差し出したんだろィ」


「はぁ!?んなわけないでしょ!よくそんなこと言えるな!もっかい7話復習してこい!」


こっちが緊張してるのにお前というやつは‥どこに指を折ってくださいなんて言う人間がいるんだよ。しれっと事実を変えるな。


「わーったわーった‥あとで読んどくからオメーとりあえずどれか指出せ」


「‥それ折る気満々だろーが、確実に二本目行くだろ!」


ダメだ、こんなのじゃ沖田のことが好きってことすら否定したくなる。軽く人の指を折ろうとするやつの良いところさえ霞んでくる。いや、もしかしたら一時の迷いだったのかもしれない。周りが冷やかしたり京に行くことで迷っていたりして、精神的に不安だったから、ふらっとして沖田に恋してるって勘違いしてただけなのかもしれない。


「そういえば、お前アレまだ持ってるか」


「アレ‥?」


沖田がふと立ち止まり私を見た。アレってどれだよ、と思いながら沖田の返事を待つ。沖田からもらったものって何かあったっけ?


「ほら、アレでィ‥あのチケット」


「チケット‥?あ、大江戸ネズミーランドの?」


夏祭りの写真コンテストで特別賞をもらったときに景品としてついてきた大江戸ネズミーランドのペアチケットのことを沖田は言いたかったらしい。そういえば、忙しくてすっかり忘れてたなぁ。チケットもらって誘拐されたり沖田と喧嘩したりまた誘拐されたり、あれ‥私誘拐されてばっかじゃね?


「行くか」


「は、」


まぁ忙しかったから行く時間がなかったよね、と思っていると聞こえてきた沖田の言葉に私は一瞬耳を疑った。沖田、今何て言った?


「日曜、恵比寿ガーデンプレイス時計広場、一時」


「‥いや待て、それじゃ会えないから!ちゃんと待ち合わせしようよ!」


妙に格好つけて聞いたことのある台詞を口にした沖田を食い気味に止める。


「へェ、前みたいに行かないブ〜とか言わねぇんだねィ」


「な‥!」


‥しまった!あの台詞につられてツッコミ優先しすぎたアァア!チクショーこれが道明寺トラップか!自分の失態が恥ずかしくて、沖田に焦りがバレてしまっているんじゃないかと思ったらもっと恥ずかしくなって。みるみるうちに体の内側が熱くなって沖田を見上げられない。ブ〜とか相変わらずの沖田からの豚いじりも反論できない。


「‥勘違いすんな、お前と行くやついないだろうから行ってやるだけでィ」


妙に小さくてふてくされた声の沖田はどこかいつもの調子に見えなくて、もしかして沖田も緊張してる?なんて思ったら最後、私は何も言い返せなかった。


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