嫌よ嫌よも好きのうち?
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「あれ、今日総悟くんいないの?」


「いないよー、あいつは昼過ぎまでだから」


ヤツ、沖田総悟の本業は真選組。怪我をさせたからといっても本業を投げ出すわけにはいかないので、手伝いは週3日、昼過ぎまでという条件になった。むしろ来なくていいから慰謝料がほしい。


「あらそうなの、残念だわ。マナちゃん助かってるでしょう?1人いるといないじゃずいぶん違うと思うし」


「1本指があるかないかの方がずいぶん違うけど」


「え?何て?」


「ううん、何でもない。はい唐揚げ弁当お待たせしましたー」


ヤツが手伝いを始めて1週間。最初の3日くらいは普通に働いてくれて、私も助かっていた。


でもそれはその3日だけで、最近のヤツは仕事を私に押し付けるわ、つまみ食いはするわで何しに来てんだこいつ!と思うことがたくさんあるが、客(主婦)には人気があった。どうせ顔だろ、しかも性格の悪さが一切顔に出ていないから誰も気づかないのだ。ヤツが天使の顔した大魔王だということに。


ヤツが帰ったあとに来る客(主婦)は総悟くん、総悟くんうるさい。何なんだ本当。ここは弁当屋だぞ。


「じゃあ総悟くんによろしくね」


散々ヤツの話題に付き合わされ、最終的に何をどうよろしくなんだと思いながら客を見送り、時計を見る。1時半だった、もう客足も減ってきたしそろそろ休憩しようかと思っているとカラン、と店の扉が開いた。


「いらっしゃいま‥あ、」


「こんにちは」


店に入ってきたのは病院で会った真選組のおじさんだった。たしかヤツにウチの店で手伝いをしろって言ったとかいう‥近藤さんだっけ?彼に会うのは怪我した日以来だ、しかもあの日は私がぶちギレて彼を無視して帰った。


「ど、どうも」


あの日の自分を思い出して恥ずかしくなった私はうまく言葉が出てこなかった。とりあえず軽く会釈する。


「この間はすまなかったね‥総悟は真面目に働いているかと思ってな」


近藤さんは私に申し訳なさそうに苦笑いした。やっぱり近藤さん気にしてる、気まずい。近藤さんは何も悪いことしてないのに。この間は興奮してたから何も考えてなかったけど、私も何か申し訳なくなってきた。ていうか今日はもうヤツはいないんだけど。


「真面目に働いてはいませんが、まぁ普通に」


近藤さんにはこう言っておくのがいいだろう。全然真面目に働いてないですよ、なんて言ったらまた謝られるだろう、何も悪くないのに。


「そうか、よかった」


近藤さんはホッと胸を撫で下ろす。本当に心からホッとしているらしい。安心したのかニッコリ微笑んだ近藤さんはそのままショーケースの弁当へ視線を移した。お弁当買ってくれるのかな。


「総悟が、ここのコロッケが旨いって言ってたもんで買いに来たんだけど‥あるかな?」


「え?」


のり子さんが休憩時間に私たちの賄いを作ってくれているが、この1週間、ヤツは一度も賄いについて感想を言ったことがなかった。もちろんコロッケにも。美味しいとも不味いとも言わないから普通だと思ってるんだろうと勝手に解釈していたけど。


「あぁ、屯所の食堂でコロッケが出たときにね。あぁ見えて総悟はサボリ魔なんだが、ここにはきちんと通っているようだし」


「‥‥‥」


あぁ見えてサボリ魔って近藤さん、どう見てもサボリ魔だよ近藤さん。しかもきちんと通っているようだしって通ってるだけで、最近は邪魔しかしてないよ近藤さん。


でもあいつがウチのコロッケを美味しいと言ってたとは意外だ。


「よ‥良かったら、出来立てのコロッケどうですか」


おやつ代わりにコロッケを買いに来る子供たちのためにコロッケは毎日この時間帯から揚げ始める。美味しいと聞いてわざわざ買いに来てくれたんだショーケースにあるコロッケより揚げたてのものを食べてほしい、それに近藤さんには八つ当たりしちゃって申し訳ないし。


「わざわざありがとう、いただくよ」


私のぎこちない接客に近藤さんはニッコリ笑ってくれた。あぁこの人は優しい人なんだと思った。





「旨い!これが80円なんて勲感激!」


近藤さんはコロッケを気に入ってくれたらしい。
パトロールで近くに来たらまた買いに来ると言ってくれた。素直に美味しいと言ってくれるのは嬉しい、しかも目の前で。ぶっちゃけ私は茹でたじゃがいもを潰す作業くらいしかコロッケには関わってないけども。


「あの、近藤さん‥この間はすいません。近藤さん何も悪くないのに」


店を出ようとする近藤さんの背中に声をかける。カラン、と音がした扉が動きを止めて、近藤さんがこちらを見る。とても穏やかな表情をしている。いや近藤さんは出会ったときからずっとこんな表情だったのかもしれない。私が気づかなかっただけで。あぁ、なおさら罪悪感がわいてきた。


「きみは総悟が嫌いか?」


え、何を言うかと思ったらあいつ?近藤さんは穏やかな表情のまま私をじっと見ている。


「‥まぁどっちかと言うと」


アハハ、とわざとらしく笑うと近藤さんは目尻を少し下げて、


「総悟が怪我をさせてしまったことは本当に申し訳ないと思ってる、でも総悟はきみのことを嫌ってはいないよ。こんなこと言える立場じゃないがね」


「は、はぁ‥」


近藤さんは何が言いたいんだろう、ヤツが私を嫌いじゃないと?悪口でしかコミュニケーションとれないのに?指をイナバウアーしておいて?いやいや、それはないだろう絶対。仮に嫌っていなかったとしてもヤツの言動を照れ隠しだとかツンデレだとは到底呼べない。


「じゃあ、怪我お大事に。また来るよ」


ハテナマークが浮かぶ私に、近藤さんはそう言い残して今度こそ店を出ていった。


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