夜道にご注意を
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「ごちそうさまでした」


「こちらこそ、お肉わけていただいてありがとうございました」


夜8時、すっかり暗くなってしまうまで万事屋にいた私は帰り支度をし始めた。あのあとトランプやら人生ゲームやらで盛り上がったのであっという間に時間は過ぎていた。


「ジャンボコロッケ作ってヨ、あんなプチサイズダイエット女子にしかウケないアル」


「いやあれ普通サイズだから」


銀さんが送ってくれるらしいので玄関で見送ってくれる新八くんと神楽ちゃんとはここでお別れ。


「行くぞー」


「あ、はい。じゃあ二人ともおやすみ」


この一日で彼らとだいぶ距離が縮んだなぁ、と思いながら少しぎこちなく手を振って私は銀さんと万事屋を出た。


「ふぉー!さみーなァ、おしるこ飲みてーわ」


「銀さんあんな甘いの飲むんで「藤堂?」


話しながら階段を下りたところで、誰かの声が私に重なった。それは隣の銀さんではない。え、と思って辺りを見ると、


「おっ、沖田!?」


私たちの少し前に沖田が立っていた。いきなりの出現に言葉が出ない。しかもさっき三人に恋するフォーチュンクッキー的な感じにからかわれたのでなおさらである。


「いやアレはY○IのCHERRYだから、48人もいねーから」


銀さんが少し食い気味にツッコむ。


「何やってんでさァ、二人で」


沖田はパトロール中なのか隊服で私たちに近づいてきた。街頭に照らされた沖田の表情はよく読めなくて、変に緊張が走る。それもこれも三人が歌うからだ!


「ちょうどよかったわ。沖田クン送ってってあげてよマナちゃんの家まで」


「えぇっ!」


銀さんがさらりとそう言うので私は思わず大きな声を出してしまった。静かな歌舞伎町にそれはとても響いた。沖田は少し眉をひそめて銀さんを見上げていた。


「ここら辺は物騒だし、俺なんかより警察の方が頼れるだろ?」


うんうんと自問自答をしながら銀さんは来た道を戻るように万事屋の階段を上っていく‥ってえぇぇええ!?


「ちょ、銀さん!?」


待て待てなぜ帰る!しかも私と沖田を残して!慌てて銀さんを止めようと後ろを振り向くも、銀さんはひらひら手を振るだけ。オイふざけんなァアァァア!侍だろ、自分の発言に責任持てよ家まで送ってけよいやまじお願い300円とコロッケあげるから!


―ガラガラガラ、ピシャッ


だがそんな私の思いも虚しく、銀さんは本当に帰ってしまった。さっきよりも静かに感じる周り。視界のはじに映る沖田。


きっ、気まずいィイィイイイ!何これ何でこんな重いの空気!何で銀さん空気読みました感プンプンで帰るの!何で沖田は無言なの!そして何で私こんなに焦ってんのォオォォオオ!


「‥‥‥」


いやいや落ち着け自分!沖田だよ?三人にからかわれたとは言え沖田だぞ自分!こんなに緊張する理由なんてないぞォオォオオ!違う、断じて違う。この焦りは違うよ、うん。好きとかじゃないからな絶対違うからな!


「‥‥‥」


そろーり沖田を見るとじっとこっちを見ていた。別に視線がいつもより鋭いわけじゃないのに思わず肩が跳ねる。おかしい、何でこんなことでビクビクしてんの、こんなのドS沖田の思うがままじゃん。落ち着け、最後に会ったときは一緒に豚カツ食べたんだから。あのときは正常だったんだから、そう自分に言い聞かせていたらジャッと土を踏む足音がして沖田がこちらに近づいてきた。


まるで二人の力士に挟まれているような圧迫感に我慢できずに、私はくるり回って万事屋への階段を目指した。


「わっ、忘れ物したかも!ちょっと万事屋にとり‥」


しかし私の動きは止まった。沖田が私の腕を掴んでいたから。ぴたり、心臓が止まってさっきの圧迫とは比べ物にならない苦しさが私を襲う。


「忘れ物ねェだろ」


「う、」


沖田の声が近くて耳に響く。ドックン、ドックン、と心臓がうるさく鳴る。掴まれた腕の感覚はもはやなかった。おかしい、何これ私どうしたの。病気か?


「‥行くぞ」


顔をあげられない私の腕をパッと離した沖田はそのまま歩きだした。送ってってくれるらしい、もう逃げ道はないと覚悟した私は夜に染まりそうなその黒い背中を追った。


沖田はいつも通りで、おかしいのは私なのに、沖田の心情が見えないことがもどかしくて。あぁ、この気持ちは何だろうとチクチク心臓を刺す小さな痛みたちを感じながら歩いた。


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