実際、絵文字はあんまり使いません
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「藤堂さんが来たのは2ヶ月くらい前です、やって来るなり江戸でやってるあいうえお弁当のマナさんのことを調べてほしいって」


後片付けを終えて、私たち四人は居間にいた。そして新八くんが申し訳なさそうに話し始めたのは、今回の誘拐のこと。私はおじいさんが何をどう万事屋に頼んだか食い入るように、新八くんの話を聞いた。もう終わったことだけど、私の知らないところで何が起きていたのかとても気になる。しかもあのクレイジーじいさんが絡むとその興味はなおさら湧くのである。


「報酬は50万、できるだけ多くの情報を調べてまとめた文書を京へ送って欲しいって言われたわけ。まァ悪い話じゃねーし報酬高いから受けたんだけど、」


銀さんが思い出すように遠くの方を見ながらそう言った。


「だから、三人はうちのお店に来るようになったんだ‥」


万事屋がお店に初めて来たのはたしか2ヶ月くらい前だった。それからあっという間に常連になってしまうくらい彼らはお店へ来ていた。



「マナさんは、何人家族なんですか」


「二人。お母さんは入院してるから今は一人だけど」



どうして急に万事屋がお店に通い始めたか理由が分かったところで私はハッとした。彼らは来る度にあれこれ質問していたけど、それは情報を探るため‥だったんだ。思い返せば私やお母さんのことを深く聞かれていた気がする。


「それで仕事が終わって報酬受け取った日に、真選組が乗り込んできたのよ、マナちゃんが誘拐されたことについて知ってるかってさ。警察って怖いよねーどっからそんなこと調べてくんだよっていう」


銀さんはあーやだやだみたいな表情を浮かべながら話を続けた。話からしてあのおじいさんは情報を受け取ってすぐ私を誘拐したんだ、逆を言えばすぐに誘拐できるよう万事屋の依頼結果を待ちながら準備をしていたってことだよね?改めて今回の誘拐は計画的だったと分かって少し怖くなった。


「あのサド野郎、珍しく仕事熱心だったアル。血相変えてキモかったネ」


テレビを消して(前話参照)話に参加していた神楽ちゃんも思い出したように付け加える。サド野郎って誰?急に話が分からなくなって首を傾げると新八くんが気づいて補足してくれた。


「沖田さんのことです。たしかにピリピリしてる真選組の中でも沖田さんは一番焦ってました、本当は藤堂さんに極秘にしてくれって言われてたんですけど‥あんな沖田さんに吐けって言われたら反抗できなくて」


頭をかきながらへへへと苦笑いを浮かべる新八くん。私はさらりと言った新八くんの言葉に唖然としていた、もちろん沖田がサド野郎と呼ばれていたことではない。沖田が焦ってた、ということだ。いつだって私の前ではムカつくくらい余裕でいるのに、そんな沖田がピリピリしてたなんて想像できない‥しかも私のことでなんてなおさら。


「ありゃー沖田くん相当キレてたよ、マナちゃんどんな関係なわけ?」


「えっ、」


銀さんの突然の質問に答えが見つからなかった。だって私と沖田の関係って‥何?友達なんて生ぬるいものではないし、知り合いというほど薄くはい。客と店員も何か違うし‥ていうか逆に私が聞きたいんだけど。


教えてくださいという目で銀さんを見れば、しばしの間のあと銀さんが重そうに口を開いた。


「あいつ‥沖田くんね、お姉さんいんの。随分前に病気で亡くなったんだけど」


でも銀さんが話し始めた話題は全く別のもの、私の知りたい答えがあるような内容ではなさそうで。何でそんな話するんだろうと眉をひそめる私に銀さんが薄く微笑んでこう言った。


「そのときにも、沖田くんのああいう表情見たんだよね、俺」


「‥ど、ういう意味ですか」


「姉ちゃんのときとマナちゃんが誘拐されたとき、同じ表情してたってこと。あいつ超がつくほどシスコンで姉ちゃんのこと大事にしてたから。あぁマナちゃんも大事なんだろうなって思ってさ」


「な、」


これまたさらりと言った銀さんと目が合う。余裕そうに微笑む銀さんはまるですべて知っているように見えてなんだか恥ずかしくなった。沖田のお姉さんと私が同じ、だと‥?沖田がお姉さんをどれだけ大切にしていたかは知らないけど、そんなことあるのか。それに同じ表情って、沖田どんな表情してたんだろう。


「まぁ、あの沖田くんがこういう子気に入るとは意外だけど」


「‥‥‥」


どういうことだコルァ!と言いたかった、けど言えなかった。銀さんが今‥沖田が私を気に入ってるなんてて言ったから。心臓を急かすような緊張が体を駆け巡る。どうしよう、もうワケわかんない。何でこんな、私‥


「アレ?マナちゃんもまんざらじゃねェみたいな?」


「ち、違います!」


私の表情を見て怪しい笑みで頷く銀さん。そんな銀さんに私は慌てて首を振る。おかしい、私こんなあたふたするような人間じゃないのに!もっと落ち着いた女の子なのに!


何でこんなに心臓が早くてうるさくて、何で余裕なくなってるんだろう。


「こーいしちゃったんだ、たぶん」


「気づいてナイデショ〜」


「ほしのよーっるねがーいこめってェエ、ちぇりぃい!」


「‥‥‥」


私の心を読んだのか急に三人が順番に歌を歌いだした。リズム取れてないし新八くんにいたっては前の二人が歌ってなかったら何の歌かすら分かんないけど、アレでしょ、恋の定番ソング。


「‥って、恋!?」


今普通にさらりと恋とか出たけど、恋って‥ええぇぇぇええ!?新八くんの音痴に驚いた以上に自分に驚いた。恋って‥pardon?


「あのサド野郎が好きアルなー、趣味悪」


唖然とする私に神楽ちゃんが鼻をほじりながらそう言った。趣味が悪いと本当に思っているらしい、眉間にしわを寄せた表情がマジだ。


「そんなわけないじゃん!三人こそそんな冗談、趣味悪いよ」


「マナちゃんもまだウブだねぇ、」


超上から発言の銀さんにイラッとしながら、この話題に飽きたのかテレビをまた見始めた神楽ちゃんの背中を見ながら、私を見て控えめに微笑む新八くんの視線を感じながら考えた。


私、恋してんの‥‥沖田に?


握りしめた拳が、心の締め付けと同じくらい痛んだ。


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