腹が減っても戦はできる
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沖田のこと‥じゃなくて京へ行くか行かないか悩むことが日課にすらなりつつある今日このごろ。もうそろそろ決めなくちゃいけない。いつまでもうじうじしてられない、それは分かっているんだけどなかなか決められない。あれ、私ってこんなに優柔不断だったっけ?


「2590円になります、」


あ、言い忘れていたけど私は今買い物をしに大江戸スーパーに来ています。お店がお休みだからたまには料理しようかなって‥あ、言っておくけどこれは急に料理しますキャラになったわけじゃないから。私はもともと料理っ子だから、今までそういう描写およびシーンが割愛されてただけだから。


はりきって少し買いすぎた食材たちをエコバックに詰め込む。何も考えずに買ったけど何作ろう、とあれこれレシピを浮かべていると、


「オイ」


と急に後ろから声がした。オイなんて何て適当な呼び方だろうと思いながら振り返った。もしかしたら呼ばれたのは私じゃないかもしれないけど。


「オイお前、その肉寄越せヨ」


振り向いた先にいたのは、オイなんて口調が似合わない可愛らしい女の子が私の、買った肉を見ていた。


「って、神楽ちゃん!?」


「‥誰アルかお前」


「忘れたの!?マナだよ!弁当屋の!」


声をかけてきたのは万事屋の食いしん坊、神楽ちゃんだった。弁当屋と聞いて、あぁ、と思い出したらしい神楽ちゃん。いや弁当屋って言わないと分からなかったの?まぁ神楽ちゃんのコロッケはいつも新八くんが買いに来てるもんね。


そして本題に戻るけど、神楽ちゃん肉を寄越せと言った?


「え、あの‥これは私が買ったから」


「ふざけるなヨ!それはファミリーパックネ!お前独り暮らしアル、ファミリーパック買っていいのはファミリーヨ、しかもそれ最後のひとつだったネ」


神楽ちゃんは本気でこの肉を狙っているらしい、持っていた傘がこちらに向けられた‥え、怖っ!
ファミリーパックなんて気にせず、ただ安いから買ったのに。しかも独り暮らしってそういうの関係なくね?


「私は腹ペコネ!この一週間たまごかけごはんも食べれなかったアル。やっと依頼が入って久しぶりのちゃんとご飯は肉って決まってるネ!」


「‥銀さんと新八くんは?一人?」


「話をそらすんじゃねーヨ、私はその肉が欲しいアル」


「いやだからさ、」


「おーい神楽何してんだてめぇは」


埒があかずどうしようかと困っていると、どこからか声がしてふらーっと銀さんが神楽ちゃんに近づいてきた。私にはまだ気づいてないらしい、呑気に鼻をほじっている。


「この女が私たちのファミリーパック取ったアル!許せない行為ヨ!」


いやだからこれは私が買ったもの、と何度目か分からない言葉が出てくる。でも銀さんが来たからには大丈夫だろう、きっと適当になだめて連れて帰ってく「あーん?何だとォ?ファミリーパックこの女が取ったのか?」


「‥‥‥‥え?」


「しかもてんめっ弁当屋ガールじゃねぇか、よくも俺ら1か月ぶりの肉を取ったな!しかもファミリーパックゥウ!?スーパーが俺たち貧乏家族のために用意した商品に手つけるたァ、いい度胸じゃねェか、あぁん?」


安心したのも束の間、銀さんがこちらを睨んできた。神楽ちゃんがガヤを入れるようにオルァとかあぁん?とか言ってる。な、何この人たち。銀さん成人してるよね?言ってること神楽ちゃんと変わらないんだけど、どんだけこの肉欲しいの。


「いや、あのでも‥これは私がもう」


「あぁん?グチグチ言ってねェでよこせ、ファミリーパック」


「さっさと寄越さねーと肉と一緒に炒めてまうぞわれェ」


「(ヤ、ヤンキー?)」


ものすごく面倒くさいことに絡まれてしまった、全然怖くない脅しに顔の筋肉がひきつる。


「‥あんたら何してんだァア!」


そこへ大声で近づいてきたのは新八くん。来るなり二人の頭を勢いよく叩いている。


「すいません本当すいまっせん!」


そしていきなり私に頭を下げ始めた。いや、新八くんが謝らなくても‥


「いや、あの‥」


新八くんもさっきの銀さんのように私には気づいていないらしい、ずっと謝り続けている。折り畳み携帯並みの角度で謝っている。謝罪の王様オーディション受けただろ並みの謝罪をしている。仕舞いには二人の頭を無理矢理下げさせ始めた。


「あの‥新八くん?私だから、もういいよ」


私がそう言うとピタリと動きをやめて私を見上げる新八くん。あ、マナさん!と驚く新八くん。うん、気づくの遅いね。


「‥‥‥」


がしかし、いざ目の前の三人が立ち上がると目線は肉、しかも超がつくほどのギラついた目で肉を見ている。よく見れば三人の頬はこけ、目の下には隈ができていて、神楽ちゃんに限ってはヨダレを垂らしている。


「(‥そ、そんなに食べたいんだ)」


三人の様子を見ると肉に対する感情が半端ではない、まともに食事してないって言ってたっけ。たしかに最近お店来てなかったもんな。


ここまで来るとあげてもいいかと思えてきた。このファミリーパックだって本当に必要としている人たちに食べられた方が幸せかも、私はまだ何に使うか決まってなかったし、最悪まとめて冷凍保存するつもりだったし。


「‥あの、やっぱりこれ良かったらど「「「ワァアアア!」」」


「ギャァアア!」


私が肉を彼らに差し出した途端、まるで餌を求めたハイエナのように三人が私に襲いかかってきた。


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