仲良くやっていける気がしない
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「あーもう!」


片手が使えない生活は自分が思っていたより不便で、毎日が苦痛だった。おかげでGWは何も楽しめないまま終わってしまい、今日からまた店は営業を始める。この状態で店番できるか不安だけど、やるしかない。


「マナ、悪いけど降りてきてー」


私とお母さんの住まいは店の2階。慣れぬ手つきでエプロンを腰に巻いていると下からのり子さんが大きな声で私を呼んだ。いつもなら営業の10分前に降りていく私。時計を確認するとまだ30分前だった。


「のり子さーん、悪いけどエプロン巻いてー」


エプロンを巻くのを諦め、私は階段を降りる。階段を降りたところで店のキッチンを覗くとのり子さんが弁当のおかずをプラスチックの弁当箱に詰めていた。そして同じくキッチンに背を向けた男の人が1人‥って、え?


「マナおはよう、今日からお手伝いで働いてくれる沖田くんだよ」


「‥‥‥」


のり子さんの声で流しで手を洗っていた男の人がこちらに振り向いた。何でこいつここにいんのォオオ!?


「マナの手、不便そうだからって治るまでウチで働いてくれることになったんだよ」


「はっ‥え、ちょ‥まっ」


頭が混乱しすぎて何が言いたいのかわからない。不便そうだからって不便にしたのお前ェエ!ていうか何もう三角斤被ってんだよ、マジなの?マジで働くの?


「だから開店まで、お店のこと教えてやって」


「のり子さん、わかってる?この怪我この人にやられたんだよ?」


おかずを詰め終わり、おむすびを握り始めるのり子さんに駆け寄る。のり子さんには全て正直に話したので、捻挫じゃないことも全治1ヶ月かかることも知っている。こいつにやられたってことも。


「知ってるわよぉーあんたたち仲良いのねぇ」


「「‥‥‥」」


にぎっ、にぎっ、とおむすびを握る音だけがする。のり子さん、どの辺が仲良いと思ったのか教えてほしい。





「何で来たの」


のり子さんに仕事を教えるよう言われて渋々私とヤツはカウンターへ。シャッターが閉まっている店内は薄暗い。


「勘違いすんな、俺は近藤さんに頼まれて来たんでィ」


青いエプロンを腰に巻き、ズボンのポケットに手を突っ込んだままのヤツはこちらを見ずに言った。


「こっちだって来てくれなんて頼んでないけど」


「その手じゃ働けねーだろィ‥俺が言うのもおかしいけどな」


「本当だっつーの、めちゃくちゃ痛かったんだからねこれ!」


あの日、ヤツに中指を立てたように左手を顔の前に出す。心なしかヤツはほんの少し、反省しているように見えた。


「わかってる、早く仕事教えろィ」


何がわかってんだよ!何もわかってねーから他人の指をイナバウアーできるんだろ、荒○静香もビックリだよあんなの!前言撤回、もっと反省しろクソッタレ。


「その前に、エプロン」


狭い店内を回ろうとするヤツに私は後ろから自分のエプロンを差し出した。本当に手伝う気があるかはわかんないけど私が不便なのには変わりないし手伝いとしてなら認めてやっても‥いいかもしれない。


「あ?俺はもうつけ「あんたじゃなくて私」


意味が分かったのか、ヤツは私のエプロンをバサッとつかみ、乱暴に私の腰に巻きだした。


ぎゅっ!


「‥ふんぐっ、ちょっとキツいんだけど!」


しまった、ヤツが普通に巻くはずがなかった。わざときつく巻いてそのまま蝶々結びをする。ていうかエプロン巻く位置違うから、何でウエストに巻く?


「ちったァ痩せろってことでィ」


ばしっ、


すかさず右手でヤツの頭を叩く。手のひらに触れたヤツの蜂蜜色の髪はさらり、としていてそれがまたムカついた。どこのシャンプー使ってんだ、気になるぞコノヤロー。


こんな感じで、ヤツ‥沖田総悟がウチのお店で働くことになったのです(私は反対)。


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