嫉妬しただけ


次の日、私が朝練に遅れそうになって走っていると、丸井に会った。

「お、おはよ…!」
「ん…はよー」

丸井は菓子パンをもぐもぐと食べながら軽々と私を抜いていく。こういう時、こいつも運動部なんだな、と思う。

「…ぽっちゃりのくせに…」

ぽつりと呟いただけだったが、丸井に聞こえたらしく、丸井は足を止め私を待つ。

「おめーに言われたくねえよ」

確かに私は平均よりちょーっとばかし上回る体重だけど、女の子にそれを言うとは…ありえない。…あれ、前もそんなこと言った覚えが…まあ、いいや。

「いや、あたしも言われたくないからね」
「俺はかっこいいからいーの」
「顔だけ良くても、ねえ…」
「え、なに、顔はかっこいいって思ってんの」

にやにやした笑みをそのかわいらしい顔に張り付け、こちらを見てくる丸井。

「…まあ、そこそこ」
「嘘つけ」
「…嘘、かわいい」

その瞬間、丸井が苦虫を噛み潰したような、渋い顔をした。

「かわいくねーし」

ちょっと、ぶすっとした赤髪の彼は、女の私からしてみればかわいい以外の何ものでもないのだが。

「そうだね、かっこいい」

そう言うと、そいつは急に笑顔になって、

「だろぃ?」

と聞き返してきた。勿論、

「うん」

と答える。
なんだか少し照れ臭くなってしまって、丸井と反対の方に顔を向けると、見馴れたもじゃ毛が視界に入った。

「あっ、赤也おはよう!」
「…はよっす」

赤也は私の少し前を走っていて、だんだんペースを下げてくれ、隣に来た。

「昨日はありがとね」
「…ういっす」

昨日とは違い、なんだか元気がなさ気だ。

(何かあったのかな…)

相変わらずその反対には丸井がいたが、何故かまた、にやにやとした表情になっていた。え、気持ち悪。

「赤也、今何時かわかる?」
「えーと…」

幸村くんに遅刻しないようにね、ともらったらしい腕時計をちらりと見る赤也。

「…7時32分、っす」

その時間をきいて驚愕する三人。

「ちょ、完全に遅刻じゃん!」
「やっべ、幸村くんに怒られる!」
「そそそそれだけは勘弁…!」
「急ぐぞ!」
「うん!ほらっ、赤也もっ!」

むすっとした不満げな赤也の手を取り、丸井の後ろを走る。赤也はライフポイントを100で例えると、先程は10もなさそうな感じだったのに、いきなり全回復したかのごとく、

「はいっ!」

と、元気に返事をして、私が手を引いていたのが、次の瞬間には、赤也が私の手を引いていた。


(最近、赤也がよくわからない)
(だって、ブン太先輩と楽しそうに喋っていたから)



100923