素直じゃないから


それからしばらく歩いていると、二手に別れる道に出た。

「先輩ん家ってどっちすか?」
「こっち、左の方」

指を指して答える。赤也が了解、と一言だけ言って左の道を歩き出す。

「…赤也の家に近い方は?」
「…右っす」

余計遠くなるじゃん!と声をあげると、別にいいっすよ、と、にかにかした笑顔で言われた。きゅんときた。

「あっ、うち、ここなんだ」

家の前に着き、足を止める。赤也の足も止まる。

「じゃあ、先輩、また明日」
「うん、ばいばい」
「…………」

赤也は何か言いたそうにしていたけど、無言で、また、さっき歩いて来た道をゆっくりとした足どりで歩いて行った。その姿を少し見送って、家のドアに手をかけた時。

「先輩!」

後ろから声が聞こえて振り向くと、うっすらと顔を赤らめた赤也が玄関先に立っていた。

「うお、どうした、赤也」
「…俺!」

正直、住宅街で大きな声でしゃべってほしくはなかったけど、今は口出ししてはいけない気がした。

「誰にでも意地悪したり、ケーキおごったり、家まで送ったり、しませんから!」

また明日!と、先程きいたばかりの台詞を残し、走り去って行く赤也。

(…つまり…)

「…どういうこと?」

私には赤也が言いたかったことがさっぱり理解出来なかった。


(…ま、いっか)
(…言っちゃったよ、俺…!)



100911