顔出し


颯爽と教室を去って行った蔵を見送り、次の授業の準備をする。ふと教室の時計を見ると、開始時間5分前。さっきのチャイムは予鈴だったようだ。

「真、次なんだっけ」
「あー5時間目やから…歴史!」
「うげー」

私は歴史が苦手で、その上嫌いときた。ていうか嫌いだから苦手になった、といった方が正しいと思うけど。年号とか人物名覚えるのが無理。

「名前嫌いやもんな」
「年号とか覚えるのが出来ない…あんなの無理無理」
「語呂合わせや、語呂合わせ!」
「…例えば?」
「いちごパンツの明智光秀!」
「それが覚えられない!」
「ほな諦めえ」

引くの早くないかな、真ちゃん。

「ま、そんなんええねん」
「私としては全然よくないけど」
「マネージャー頑張り!」
「人の話を聞け、人の話を」
「いやん、冷たいわ名前ちゅわん」
「真、どこの世界にいってるの、帰ってきて!」

その時チャイムと同時に、教室に先生が入って来て、全く話が噛み合わない友人との会話はそこで途切れた。しかし、真から最後に一言。

「白石が今日の放課後に顔出しに来いって言うてたで」

その一言で、私は少しの憂鬱とたくさんの緊張でいっぱいになった。



午後の授業やらHRやらが終わると、私の教室まで白石くんと忍足くん(こちらも真に聞いた)が迎えに来てくれた。とてもじゃないが、恥ずかしすぎる。私がそう言うと、真も含め3人共、そうか?と不思議そうな顔をしていた。私が東京育ちだからかな…。

「ほな、あたしはここで。名前、さいならー」
「じゃあねー」

テニスコート近くまで一緒に来てくれた真に別れを告げ、前を歩く2人に続いてコートへ入る。すると勿論、自分達のテリトリーに見知らぬ女が入って来たとなれば、注目されて当然で。

(うぅ…視線が痛い…)

「今からこの間言っとったマネージャーの紹介するでー」
「練習やめてこっち集まってや」

あれがマネージャー?だとか、へえー大人しそうやな、だとか色々聞こえてくる。別に大人しい訳じゃないけど、知らない人が集まってきたら緊張もするし静かになる。

「この子が我がテニス部のマネージャーをすることになった、苗字名前さん」
「…よろしくお願いします」
「こっちに転校してきたばかりで、慣れないこともたくさんやろうから、みんな仲良うしたってな」

白石くんが全部言ってくれて、テニス部のみんなは盛大に拍手をしてくれて。こちらこそ仲良うしてやー、などと声をかけてくれた。
ここなら、楽しくやっていけそうだと思った。



100607