来訪


「俺、白石はもっと余裕のあるやつやと思っとったわ」

2階にある謙也の部屋に入った途端そんなことを言われた。

「そうか?」
「おん。逆ナンされるわ、モテるわで慣れとんのかと思っとった」

あながち間違ってはいない。しかし、今でも逆ナンされるのは苦手だし、好きな子以外にモテるのもあまり嬉しくはないわけで。

「好きな子やったら、やっぱちゃうやろ」
「白石も初々しいとこあんねやな」
「謙也に言われとうないわ」
「それどういう意味や」

謙也には悪いが、今日は苗字さんに会えるかもと思って来ただけなので、適当に謙也と会話をしたら帰ろうと思っていた。
そろそろおいとましようかと考えていた時、下から謙也の母さんが呼ぶ声がした。

「謙也ー、お客さんよー」

今行く、と謙也が返事をして、ちょっと待っててや、と俺に言うと階段を下りて行った。

(帰るタイミング逃してしもたな…)

謙也が用意してくれたオレンジジュースを飲み干し、カラカラと半分ほど溶けかけた氷をいじっていると、階段を駆け上がる音がした。ドアの方をみると、謙也がドアを開けたところだった。

「白石っ」
「なんや?」

少し慌て気味な謙也を不審に思いつつ聞いてみた。

「苗字来てんねんけどっ」

その時、氷がカランと音をたてた。



100710