転化


本当に彼女に会えるかどうかもわからないのに浮かれまくっていた俺は、勿論放課後に謙也の家に遊びに行くことにした。

「何か久しぶりやな」
「せやなー、1ヶ月ぶりくらいか?」

謙也の家の前に着くと、隣の、クリーム色の新築の家をちらっと見た。

(ここが苗字さんの家か)

「おい、何お隣りさん見てんねん」

ばれないよう、自然に視界に入るようにして見たつもりだったのだが、謙也にはわかってしまったみたいだ。

「見てへんて」
「絶対見とったわ」
「み、て、へ、ん」

嘘つけ!なんて言われながら、もう一度苗字さんの家を見上げた。
すると、ちょうど俺が見た2階の部屋の、薄桃色のカーテンが開き、人影が見えた。

(えっ、ちょ、もしかしてあれ…)

「謙也、あそこ見ぃ…!」
「ん?…あぁ…」

やっぱり苗字さん…

「苗字の母さんやな」
「そやろ…って、なんやねんそのオチ!」

謙也はめちゃめちゃ笑顔で俺の肩を叩いて、ドンマイやな!とか言ってるし、苗字さんかと思いきや、お母様だし…本当についてない。

「白石」
「なんや…」

謙也が指差す方を見ると、先程の人影の横に、少し背の低いもうひとつの影があった。この影はもう、ひとりしか。

「ほら、ピンクかわええやろ?」

お母様の声が聞こえた。隣の家まで届く、大阪人らしい声の大きさ。

「いややっ、黄色がええー」
「…っ」

少し小さい人影――苗字さんの声が聞こえた。それだけでこんなに反応してしまうのは、もう末期だと思う。まだ会って2週間ほどだというのに。
もしかすると一目惚れだったのかもしれない。


(そないあからさまに反応すな、らしくないっちゅー話や)
(人は変わるもんやで)



100704