期成


「あっいや、別にそういう関係やなくてな…」

固まってしまった俺を見て必死に弁解する謙也。

(弁解ちゃうと思うけど)

ついつい、そんな風に考えてしまうのは、きっと苗字さんのことが気になっているからなんだなあと改めて恋を確信した。

「お隣りさんやねん、家」
「…ほんまか」
「おん」
「…羨ましすぎるわアホ…」
「なんか言ったか?」
「ん、なんも」

苗字さんは1ヶ月くらい前に謙也ん家の隣に引っ越して来たらしい。引っ越し祝いももらったのではっきり覚えているとのことだった。
と、いうことは。

「でかした、謙也!」
「な、なにが…!?」

思わず立ち上がり、謙也の右手を両手で掴んでしまったので目茶苦茶怪訝な目を謙也に向けられたが、そんなもの気にしていられない。
もし、俺が謙也ん家に遊びに行ったとすると…

(苗字さんに会えるかもしれへんやん!)

そんな希望で胸いっぱいになっていると、そこでチャイムが鳴り、それと同時に先生が教室に入って来た。先生は俺達を一目見て、ロミオとジュリエットでもするんか?と聞いてきたが、俺は少しも気にせずに、はい、と適当に答えて受け流した。


(って何言うてんねん白石!)
(ん?なにが?)
(…恋は盲目てほんまやってんな…)



100627