驚異


「………」

驚き過ぎて言葉が出なかった。恐らく今、俺は謙也に引けをとらないくらい最高にアホ面だろう。…というのはさすがに言い過ぎか。心の中で謙也に謝っておく。

「え…ほんまに苗字なん」

謙也も驚いていた。

(俺の方がびっくりしたわ)

なんで謙也が苗字さんのこと知っているのか早く聞きたかったが、何て言えばいいのか頭が回らなかった。

「いや、財前がな」

俺の気持ちを察してか、謙也が話し始めてくれた。こういうところで、やっぱり親友は心が通じてるんだな、と感じる。

「部長が恋しとってきもいっすわー、なんて言いよるから、気になって、誰って聞いてん。ほな、同じ委員会の隣のクラスのやつとか言っとってな」
「…ほんでクラスのやつに聞いたっちゅーわけか」
「せや。もうひとりは男やったから、苗字やな、って…」

財前くんは俺のプライベートでデリケートなことをそんな簡単に、しかも親友の謙也の前でぽろっと呟いていたのか。いや、謙也なら知ってる、とか思ったのかもしれないが。

(今日のおやつは善哉却下やな)

少し本題と離れたことを考えていたら、謙也がすまん、と謝ってきた。多分、俺が、知らないところで好きな子を知られたことを怒っていると思ったのだろう。謝らなくても俺は怒ってない。ただ、苗字だけど、謙也が苗字さんのことを、仲よさ気という感じで馴れ馴れしく呼び捨てにしているのが気になった。

「謙也って苗字さんと知り合いやったりする?」
「おん」
「ほ」

また驚き過ぎて、ほんまの一言も言えなかった。



100616