思索


(ま、俺に会いに来た訳ちゃいますしね)


(あー…くそ、まさかバレとるとは)

昨日の昼休みに財前に言われた言葉が頭を過ぎった。確かに財前は勘はいいやつだけど、こんなに鋭いとは思っていなかった。まだ俺が図書室に通うようになって、2週間も経っていない。そんなにわかりやすかったのか、俺。

「なんや悔しいなあ…」
「なにがや」

ボソッと呟いた言葉は、前の席に座る謙也に届いたらしく、謙也がこっちを振り向いた。

「えらい深刻な顔しとるな、なんか悩みでもあるん?」
「そやな…」
「俺でよかったらきくで?」
「恋してんねん」
「…は?」
「こ、い、してんねん」
「…ほんまに?」

何回聞いてくんねんこいつ、って思ったのは内緒だ。

「ほんまに」
「…へえ」

謙也は一瞬驚いた顔をして、すぐにまた元の表情に戻ってきいてきた。

「誰なん?」

苗字さんは2年生だし、委員会も違うから、謙也に言ってもわからないだろう。ヒントだけでも言っておこうか。

「じゃあ、ヒントな。2年生で」
「おん」
「大人しくて」
「…おん」
「本読むんが好きな子」
「…………」

誰だか特定するには足りない程度のヒントにした。親友とはいえ、バレたら少し恥ずかしいものがある。財前にバレた時はものすごく恥ずかしかった。

「…………」
「…どうしたん、謙也?」

謙也はさっきから無言で何かを考え込んでいるようだった。

(そない俺の好きな人知りたいんか?)

そんなことを思っていたら、やっと謙也が口を開いた。
その口からは、俺がこれっぽっちも、万が一にも発せられるとは思っていなかった言葉が出てきた。

「…もしかして苗字?」



100614