嫉視


「こんにちは」
「また来たんすか」

俺はあれから、暇なときは時々、図書室に行くようになった。理由は財前がきちんと当番しているかの確認。そして

「白石先輩、こんにちは」

苗字さんと話したいから。というか、仲良くなりたいから。今月は財前と苗字さんが当番らしい。一石二鳥だ。

「苗字さんは偉いなあ、財前と違うて」
「え、いや、そないなことないですよ」

そう謙遜する彼女は、とてもいい子だと、ここ何日かで確信した。昼休みは弁当を早めに食べ終え、一番に図書室の鍵を借りて、誰がいつ来ても大丈夫なようにしている。この間たまたま見かけた時は、本棚の整理までしていた。そんな苗字さんは、今一番気になっている女子だったりする。

「ちゅーかもうサボらないんで、大丈夫ですわ」
「お前昨日朝練サボったばっかりやん。その口でよう言うわ」
「い、いたたたっ」

財前の右頬をつねると、俺らを見ていた苗字さんが財前の隣で柔らかく笑った。

(かわええなあ)

「あっ、光くん、待ってる人いるで」
「おん」

そう言って財前が借りに来た生徒の本を手に取る。俺はそんなことよりもっと別のことに気が向いていた。

(名前で呼んでんねや…)

苗字さんと同じ学年の財前が羨ましい。いつか俺も名前で呼ばれたらいいなと思った。
あわよくば、俺も名前で呼びたい。

(…名前ちゃん)


(…なんや俺、めっちゃ部長に睨まれとんのやけど)
(えっ、そう?)



100605