時には諦めも肝心


「好き好き好き好き好き好き」
「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い」

私はいつものように、愛しの彼に愛の言葉を囁き、彼はいつものように、私に正反対の言葉を返す。

「なんでうちは一氏のこと、こないに好きなのに、伝わってくれへんの」
「なんでうちは苗字のこと、こないに嫌いなのに、伝わってくれへんの」

彼、つまり、一氏ユウジは私の声を真似して言葉を返している訳だが、そんなものずいぶんと前から慣れてしまっている。

「うち、一氏のこと好きやねん」
「それなんべん言うねん」
「愛の数だけ」
「きもいわ」

一氏は、ふいっ、と窓の方に顔を向けてしまう。

「一氏」
「…なんや」
「どっちか諦めんと終わらんよ」
「ならお前がはよう諦めぇ」

そう言いながら、こちらを振り向く一氏。あぁ、かっこいい。

「そんなん天地が逆さまなっても無理やっちゅー話や」
「なんやそれ謙也か」
「誰それ」
「お前同じクラスやないか」
「…………あぁ」
「謙也可哀相やな」
「うち、あんたしか見えてへんねん」
「きっしょ」
「どんだけ言われても痛くも痒くもないわ。とにかくうちは諦めへん」
「あっそ、俺も譲らへんわ」

一氏に少しだけ近づく。一氏も近づく。真っ正面から、視線がぶつかる。

「…………」
「…………」

少しの沈黙の後。
自分の声がした。

「しゃーない、うちが諦めるわ」

それは、どちらの声だったか。



100804