うそうそ


中二の春めいてきた頃、ひとりの先輩と出会った。
その日私は先生に勝手に決められた体育委員の仕事で、外にある倉庫の整理をしていた。
真面目な私は他の生徒が来ていなくても、一人で黙々と作業をしていた。

「お嬢さん、大丈夫か?」

急に後ろから声をかけられて、私はビクっと肩をあげた。
振り返ると何度か見かけたことのある男子生徒だった。多分、先輩。
声低くてえろいし、お嬢さんとか言うから不審者か何かかと思ったので少し驚いた。

「ひとりなん?」

関西弁みたいな言葉遣いで、先輩はまた話し掛けてきた。

「あ、はい…」
「ふうん…体育委員さん?」
「はい、そうです…」

答えつつ、作業を進める。
こんなところを見られても全く嬉しくないので、先輩には早くお引き取り願いたかったが、中々どうしていなくならない。

「…あの」
「ん?」

倉庫の入口側の壁に寄り掛かりながらこちらを見ていた先輩に話し掛けてみた。

「何か?」
「いや」

別に。と、すごい笑顔で言われた。
何も用事ないならどっか行けと言いたかったけどさすがにやめた。

「…ただ」

背中を預けていた壁から離れ、先輩が歩いてくる。

「君が」

私が?

「気になんねん」

先輩は足元に落ちていたサッカーボールを手に取って、カゴに戻した。
そして、笑顔で聞いてきた。

「手伝おか?」

口説き文句なのか何なのか、よくわからない台詞に、私は顔に熱が集まっていくのを感じながら答えた。

「…お願いします」

先輩はまたも笑顔で言った。

「ええ子や」



(これこっち?)
(違います)
(あっちか?)
(違います)
(どこやねん…!)
(…………)

少しでも長く、貴方と居たいんです