つまるところ 同じクラスに仁王雅治という男子生徒がいる。我が立海大附属中学校の誇るテニス部のレギュラー。”イリュージョン”なる必殺技を持ち、二つ名で”詐欺師”と呼ばれている男。容姿端麗で、運動も出来るとあり、女子生徒に人気がある。 だが、私には理解できない。 「名前」 こうして、まだ数えられる程しか話したことのない相手に馴れ馴れしく名前で呼んだり。 「教科書見してくれんか」 話し掛けられたと思ったらこれだ。先生じゃないけど、あんたは一体学校に何しに来てるんだ。 あぁ、テニスか。 「…はい」 仁王は一番窓側で、仁王の隣は私しかいない。仕方がないので机をくっつけて、教科書を開く。 「さんきゅー」 まあ、別に何かが減るわけでもないし、いいのだが。 「…あ、どこからだったっけ…」 ぽそりと呟いた小さな声は、普段なら絶対聞こえないだろうけど、今は机をつけて近い故、仁王に聞こえたらしい。だが、ここで私の理解が出来ないものが登場する。 「プリッ」 そう、これだ。仁王が私の教科書に書かれた文章を指差しながら言った謎の感嘆詞。 一体何を考えてそんな言葉を放っているのかさっぱりわからない。意味がわからない。 「そんなに見つめられたら照れるじゃろ」 いつの間にか自分でも気付かぬうちに仁王をじっと見つめていたようだ。 「あぁ、ごめん、つい」 「つい?」 思わず声に出ていたみたいだ。 「”プリッ”ってどういう意味なの?」 「ん?」 「なにか意味があって使ってるんじゃないの?」 「特にないぜよ」 「え、ないの?」 「ない」 じゃあ、何故使っているんだろう。本当に意味がわからない。仁王は掴みどころのないやつで、人とずれていて、おかしいんじゃないのか。 「そんなに気になるんか」 「…そこそこ気になる」 「おまんも変わっちょる」 「ふうん…そんなこと言われたことない」 「それじゃ、俺が初めてじゃの」 気持ち悪い言い方をするやつだ。 「そうだね」 「…やっぱ、変わっちょる」 あんたに言われたくないと思った。でもその変人から言われたのだから、私も相当なのかもしれない。 つまり、私も同類。 (ところで、名前のこと好きなんじゃが) (奇遇だね、私も仁王のこと好きだよ) 100629 |