Iin


ぶくぶくぶく。
目の前で泡が静かに上へと上がっていく。
酸素を求めて上へ上へと上がっていく。
俺もついて行っていいのかな。

「だめ」

愛しいあの子の声が聞こえた。

「ずっと、一緒にいて…」

とても淋しそうな声で言うもんだから、苦しくても我慢しようと思った。
名前は俺の隣で目を瞑ってゆらりゆらりと揺れていた。
苦しくないの、と聞いてみた。

「全然」

本当に?

「幸村くんといるから」

名前は俺と一緒なら苦しくないらしい。
じゃあ、俺も名前と一緒にいるから、苦しくないのかもしれない。
口を開けて含んでいた酸素たちを一気に吐き出す。
ごぽごぽごぽ。

「幸村くんも、私と同じ」

同じだった。
今までずっと苦しかったのに、それがまるでなかったかのように、清々しい。
そしてまた、沈んでいく。


(大丈夫)
(隣には君がいるから)



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