風が止まずとも


ふわふわしてるね。
そう、彼女に言われた。

「ふわふわ?」
「うん」

俺の腕の中でこくんと頷く名前に俺は首を傾げた。

「千歳くんって雲みたいだもん。雲みたいにふわふわしてて、雲みたいに…」

そこで、名前は一度言葉を切った。そして悲しそうに言った。

「飛んで行っちゃいそう」

名前は俺達の頭上でゆっくりと流れていく雲達を見ているようだった。

「俺は…」

確かに俺は流れ者だ。
熊本から大阪へ。獅子楽から四天宝寺へ。元々散歩や、ほっつき歩いたりするのが好きなのだ。転校した時だって、不安より悲しみより、期待や楽しみの方が大きかった。俺にはふわふわではなく、ふらふらが正しいかもしれない。
しかし、それでも。

「俺は、ここにおる」

決して傍を離れない。
こんなにも愛しい人がいるのだ。誰が離れたりするものか。誰が手放したりするものか。
好き。
声に出さずとも伝わるように強く抱きしめた腕に、名前の手が添えられた。


(千歳くん、いたいよ…)
(す、すまんかったばい…!)



101117