敵わない、叶わない 俺がまだ小学校の時、よく遊んでもらった女の人がいた。その人は週に一、二回ほど家に遊びに来ていた。 「光くん」 呼ばれて振り返ると、上から手がのびてきて、足が宙に浮いた。 「ちっちゃいね」 可愛いなあ、と漏らすその人に俺は勿論反抗する。 「かわいないわ」 「ふふ」 反抗するのだが、いつも笑って返される。無駄な足掻きだとわかっていても、どうしても意地があったのだ。 俺はその人に恋をしていた。 幼いながらも、誰にでも隔てなく優しいその人に恋心を抱いていた。 しかし。 「名前、行くで」 「あ、うん、じゃあね、光くん」 小さかった俺は全く気が付いていなかった。 その人が兄貴の彼女なのだと。 数年後、二人は結婚し、子供も出来た。絵に描いたような幸せな家族。 「光くん」 呼ばれて振り返ると、下から手がのびてきて、頭にのせられた。 「おっきくなったね」 かっこいいな、と前と変わらない笑顔で俺に話しかけるものだから、なんだか泣きたくなった。 (もっと早う言われたかったわ) 101117 |