危険な電波


その日、俺のクラスに転校生が来た。

「苗字名前です。よろしくお願いします」

月並みの見た目で月並みな挨拶を済ませ、転校生、苗字は俺の斜め前の席に座った。なぜそんな場所の席が空いていたのかさっぱりだったが、この為だったのかと不意に思った。


昼休みになって、飯を食い終わった俺は眠くなったので屋上で昼寝しようとした。しかし、屋上へと続く扉にはめずらしく鍵がかかっており、ピアスはしているが別に不良な訳ではない俺は扉を蹴破るなんてことはせず、大人しく中庭の日陰で昼寝をすることにした。
中々に気付かれないその穴場は中庭の隅の方にある。そこまで歩いている最中、例の転校生を見かけた。近くには、同じクラスの女子達がいて、お喋りしているようだった。だがよく見ると、苗字は全く口を開いていない。ただその場でじっとしているだけだった。


「こんにちは」

昼休みが終わる頃に一度、目が覚めたのだがあまりに眠く午後の授業はサボろうと思い二度寝し始めしばらくして、声をかけられた。
ゆっくりと目を開くと、目の前に苗字の顔があった。

「…………」
「…こんばんは?」
「いや、そういう問題ちゃうわ」

そうなのか…と呟き少し俺と距離をとる苗字。それでも俺が顔をあげると、しゃがみ込んでいる苗字の顔とは20センチ足らずである。

「何か用?」

それきり口を開かなくなった彼女に聞く。苗字は俺の目を見て言った。

「君は」
「は?」
「何星から来たの?」
「………」
「アーユーフロム…」
「いやだからちゃうて」

ちゅーか今何て言った。何星?なんやねんこいつオカルト好きなんか。人は見かけによらないとは、まさにこのこと。

「俺は…」

地球人や。と言おうとしたのだが、せっかくの昼寝を邪魔されたのだ。少しくらい、悪戯したって許されるはずだ。

「金星人や」
「えっ!?」

思った以上のリアクションで向こうも驚いたようだが、こちらもびくりとしてしまった。

「ほんと!?私会いたかったの!」

天にも昇りそうな勢いで幸せそうな笑顔を振りまく苗字。俺は悟った。こいつは危ないと。

「昨日の儀式が効いたのねっ」

もはや言葉が出ない。金星人だなんて言わなきゃよかったと後悔ばかりが頭を過ぎる。

「あのっ!」

すると苗字は意を決したように、切り出した。

「とと友達になって下さい!」

その時の苗字の顔は、今まで見たどんな美人の笑顔をも超越するほどの可愛い照れ顔だった。


(ええよ)
(やったあ!)
(ただし、もう二度と怪しい儀式はせんこと)
(うん!)



101109