またいつか、会いました


朝は早く起きて学校へ行って朝練。そのあとはつまらない授業を受けて昼飯。放課後は部活でランニングや軽く試合をする。そうして今日もいつも通り過ぎていくはずだった。
しかし、帰り道だけはいつもと違っていた。

「にゃあ」

文字にすると猫だが、今のは明らかに人の声だった。微かに聞こえた声をたよりに、人気の少なそうな路地裏に入る。

(何やってんだか)

そう思いながらも、先程通った道より狭い路地を抜けていく。

「にゃー」

(また聞こえた)

さっきより近い。二つ目の角を曲がる。

「にゃーん……あっ」

俺の足元を灰色の猫が走っていった。顔をあげると、女の子が座り込んでいた。ぱっちりとした目と視線がぶつかる。

「あ…」
「…………」

俺がいたことに気がついたようで、急いで立ち上がり、踵を返して、俺がいる反対の道へ入っていった。まあ、そりゃあ、他人がいるのに猫の鳴きまねをしていたのだから、恥ずかしいに決まっている。

(…行っちまった…)

別にこれといって残念な訳ではないのだが、かわいらしい女の子との出会いには少しくらい、そのあとを期待したい。とか何とか考えていたら、先程曲がって行った道から、さっきの女の子が戻って来た。よく見れば俺と同じ氷帝学園の制服だ。なんだろう、急に親しみが湧く。

「あれ、どうかした?」

話し掛けてみた。もしかしたら無視されるかもしれないが、その時はその時。少し悲しむだけだ。

「…あ、あっちの道、行き止まりで…」

周りが静かだからこそ聞き取れるくらいの小さな声で、その子は言った。よかった、無視はされなかった。

「ああ、なるほどね」
「はい…それじゃあ…」

そう言って俺の方へ数歩ほど歩いて、足が止まった。俺の隣を通り過ぎようと考えていたようだが、道が狭くて通れないと気が付いたのだろう。

「俺が先に出るよ」
「す、すいません…」

ぺこぺこと頭を軽く下げる彼女。何て言うか、俺が居なきゃだめだな、とか、守ってあげたくなるような子だと思った。

(どんな女子にだって守ってほしいなんて、俺は思ったことないけど)

彼女も早く出たいだろうから、ぴょんぴょんと跳ぶように、少し早歩きで路地をかける。

「お、出た」

明るくひらけた道に出る。俺が先程歩いていた道だ。

「またな」

振り向き様に声をかけると、控えめに「じゃあ、また…」と返ってきた。
本当に”また”なのかわからなかったが、その謎は次の日には解決した。


(にゃー)
(って、またかよ!)



101029