涙の心


「どーん!」
「うぐっ」

放課後になった途端に机に突っ伏した、隣の席の謙也にアタックした。謙也は少しうめいただけだった。

「どうしたん?」
「…ちょっとな」
「あたしで良ければ聞くで」

友達が悩んでいるというのなら相談にのるというのが筋だ。

「何でも言ってや!」
「…………」
「何か言えや…!」

黙っていたらわからない。
無論、一介の女子中学生が読心術なんてものを使える訳もない。
すると、そこで。

「…ごめん」

と、謙也が呟いた。
小声で、しかし、はっきりと。

「…何が?」
「…………」

少しの沈黙あと、俺な、と続ける謙也。
何かが終わってしまうような。
何かが始まってしまうような。
そんな空気が、自分達を包み込んでいる気がした。
それでも、聞かなければと、思う。

「名前とは友達でおれん」

いつの間にか周りには誰ひとりいなかった。みんな部活に行ったり家に帰ったのだろう。

「もう、友達は、耐えられん」

謙也が机から顔を上げる。私と目が合う。

「いややねん」
「なにが」
「ともだちが」
「なんで」
「――やから」

私にはその言葉はよく聞き取れなくて、それを知ってか知らずか、謙也はもう一度繰り返した。

「名前のことが好きやから」

何故かはわからないけど。
友達が終わって悲しいのか。
恋人が始まって嬉しいのか。
私の頬に、あたたかい雫が流れた。


「うん」



101005