ノットロジック


誰もいない放課後の教室。普段はがやがやと生徒たちで賑わっているのに今はとても静かで、鉛筆と紙が擦れ合う音しか聞こえない。

「…と、まあ、こうなる訳だ」
「…………」

俺が話し掛けた相手は無言で紙を睨みつけて一言。

「わかんない」

どこがわからないのか、と聞くと、どこがわかんないのかもわかんないよ、と答えてきた。
こいつは難問だ。

「ここが、こうなるのは…」
「わからん」

即答するな、と心の中で思いながら、眼鏡をかけ直す。彼女は、椅子の背もたれに体重をかけて後ろにのけ反っていた。

「危ないぞ」
「ダイジョウブイ」

変なイントネーションで英二のような言葉を使い、彼女は後ろに倒れた。それはもう、盛大に。

「言わんこっちゃない」

俺は立ち上がり、机を挟んで反対側に倒れている彼女に手を差し延べる。

「うう…すまん」

おおよそ女子が、少なくても男子には、中々使わないであろう誤り方をし、彼女は俺の手を取った。

「思ったより痛くなかったよ」
「それでも危ないだろう」
「でも、危ない時って痛いんでしょ?危険を感じるから、そこに痛みが生じる」

気絶や即死だったらどうするんだ、とまでは言わなかった。

「だからね」

彼女は続けた。

「貞治といる時は、痛くないんだよ。危なくないから。絶対助けてくれるから」

先程は助けられなかったのに。
なぜ、俺の目の前にいる女の子は、こうも自分のことを信じていられるのか。
理屈じゃあ、ないのだ。


「絶対、強くなって、守るよ」
「うん」



100923