忘れられない赤色


「おはようございます。今日も一日、元気に過ごしましょう。おはようございます。今日も一日…」

朝の挨拶運動に励む真面目な生徒会の人達に軽く会釈して、校門をぬける。こういう時、どう返せばいいかわからない。自分も元気よく挨拶すべきなのか、それとも無視してもいいのか。

「…お、苗字じゃん」

私の苗字を呼ぶ声がして後ろを振り向くと、こちらに走って来る、ふわりとなびく赤髪が見えた。

「丸井くん、おはよう」
「はよ」
「早いね」
「朝練あるしなー」

かったるいよ、と、ぼやく丸井くん。そういえば、テニス部の部長さんはなにかの病気で入院中で、今は私と同じクラスで副部長の真田くんが部員のみんなをまとめているとか。

「真田くんには逆らえないもんね」
「ほんとほんと、こえーもん、あいつ」

口を尖らせ、眉をひそめた丸井くんは、さながら小学生のようだった。
私は彼の、そんな子供っぽいところも好きだ。

「あっ」

急に丸井くんが声をあげた。私達よりずいぶん前に、玄関に入って行く髪の長い女の子が見える。

「じゃ、俺、先行くわ」

そう言って彼は、下駄箱でスリッパを履いている彼女の元へ走って行き、おはよう、と声をかけ、重そうだな、と荷物を持ち、一時間目って何だっけ、と一緒に教室へ向かうのだ。
私はその光景を見て、一体いつまで悲しみ続けたらいいのだろう。



100920