鼻歌と羞恥心と


「ふ〜ん、ふふっふ〜ん」

陽気な鼻歌を口ずさみながら、私は学校からの帰路についていた。
なぜなら、今日は学校が早く終わり、水●黄門が見れる日だから。

「ふ〜ふふ〜ん、たんたんら〜」

あまり人の通らない道を、自分も知らない曲を歌いながらスキップで行く。

「ふふふ〜ん、ふん……」

私の鼻歌が止まったのは言うまでもない、そこに人が居たからだ。
クラスのムードメーカーな私も、例え、クラスメイトみんなの前で泥鰌すくいを披露出来ても(翌日、一氏くんにスカウトされた)、全く知らない人の前でスキップしながら自作の鼻歌を歌うことは出来ない。
私にだって羞恥心はある。

「…………」
「…………」

目の前の人は、無言でこちらを振り向いていた。きっと、歩いてたら後ろから私の鼻歌と軽やかな足音が聞こえて来たのだろう。
その人は男の子で、私と同じ、四天宝寺中学校の制服を着ている(後ろからだと他校とあまり区別がつかないから、本当かはわからない)。そして、黒髪の短髪、いじっているであろう眉、耳にはカラフルな五つのピア…………って。

「財前やん!」
「…今気付いたんかい」
「水戸●も…やない、見たいテレビがあって、それしか頭なかった」
「それ、もうほとんど言っとるで。ちゅーか古臭」
「なっ、黄門さまをなめんな!」
「毎回毎回同じパターンで飽きひんの?」
「全然飽きんわ!」
「お前頭おかしいもんな」
「おかしないー!」

一年の時に同じクラスで、今は隣の財前は、相変わらずの毒舌だった。

「ほなな、私急いでんねん」
「黄門さま見るために?」
「おん!悪いかっ!」
「…別に」
「…なんや言いたそうやな」
「…まあ、な」

明らかになにかありますよという顔をされると気になるのが人間というものではないか。

「えっ、なになに?」

好奇心旺盛な私は気になったことはすぐさま聞く質なのだ。

「…ちょっと、愛の告白をな」


数分後、にやつく財前と顔を真っ赤にして歩く私の姿があった。



100919