▼ 10
「もうすぐ春ですねぇ」
「…そうだね」
「風と踊ってみませんか」
「は?」
時間が流れるのって早い。身長が1p伸びて体重が3s減って機嫌の良い私は、ハリーを伴ったダイエット&体力作りランニングがそろそろ趣味になりかけていた。
外見的にも豚から徐々に人間に進化しつつある。
「話は唐突だがねハリー。私はこの前、町にいるジャパニーズと仲良くなった。」
「本当に唐突だね」
「ジャパニーズは中等学校に通う綺麗なお姉さん。マジ好み」
シャギーの入った黒髪の和風美少女である。
お母さんの再婚相手がイギリス人で、七歳の時にイギリスに来たらしい。
「で、そのお姉さんのお母様が弓道と柔道と剣道の師範っていう凄い女性でね?」
「ジャパニーズアーチェリーにジャパニーズレスリングにジャパニーズソードマンシップ?」
「正解だけど、今はKyudo、Judo、Kendoでそのまま通用するかな。
それでね、その凄い女性が日本格技の教室を開くらしい。」
合気道は師範代で、空手も黒帯だという話だ。なんでも士族の一族だったらしくて、今でもそういったものは身につける家風があって。ジャパニーズの偉大なるお母様は才能も武術に対する興味も向上心もあったそうだ。
ちなみに、その娘であるお姉さん本人は日本舞踊と華道に茶道が好きで、嗜み程度に(は十分な程)少林寺拳法を身につけているらしい。ああ優雅。日本文化が最近恋しすぎてつらい。
「…それで?」
「私は習いに行こうと思う。お前、どうする?」
武術は魔法と対極に位置すると私は思っているし、それはあの両親もそうだ。
そしてハリーから魔法を切り離す事と、ハリーの面倒を見る事だと僅かに前者に天秤が傾く事を私は知っている。
この前本屋に行った時、「一冊買ってやる」と言った母親。ハリーがファンタジー小説を全くの素通りして低俗な雑誌を持って来たのに対し、彼女があからさまに機嫌を良くしたのはばっちり私の知るところ。
prev / next