▼ 06
ネズミを嗅ぎタバコ入れとかいうちょっとオシャンな小箱に変身させ、『忘れ薬』を煎じ、熱気と試験の疲労が蓄積した最後の最後にあの魔法史のテストをやるというクッソ意地の悪い難関を乗り越え。
「テスト終わりィ!!あーーー夏休み!!」
チョイトおーよぎつーかれむーねーにくーるべいべー!
「まだあと何日かあるぞ」
誰でも知ってそうなフレーズで上げたテンションはドラコのつまらん一言によって水を差された。ほんとにつまらんツッコミだなおい。
やれやれ、と思いながら、テストの答え合わせをするだのしないだの言っているロンとハーマイオニーの後ろについていき、湖の畔へと降りていく。
「一ヶ月も無いと考えろ。思考の転換だ。チェス盤をひっくり返すんだ」
先頭の二人は木陰に落ち着いたようだった。
ロンはそのまま草の上にひっくり返り、ハリーとハーマイオニーが木の幹へと背を預ける。
ぐだぐだと管を巻きたい気分だったので、私も低い位置にある木の枝に腰掛けた。
おいドラコ、あっさりと木を登った私に野生の猿でも見たような目つきを向けるのはやめろ?どうも一人では登れなさそうだったので、手を貸して引っ張り上げてやった。
「……ダリア、またなんかカートゥーンのセリフ?飽きないね」
「カートゥーンじゃなくてアニメだって」
ぼそり、と口を挟んだハリーは、ほんの少しテンションが下がった私と比べて100倍くらい機嫌が悪そうな様子をしている。
疲れている、を通り越してなんかイライラしてんな。テスト終わりの開放感なぞ微塵も感じられないような有様だ。
「おいどうしたハリー」
体調が悪いのか、と掛けた声に、ロンが反応した。
「ハリー、もっとうれしそうな顔をしろよ。試験でどんなにしくじったって、結果が出るまでまだ一週間もあるんだ。いまからあれこれ考えたってしょうがないだろ」
「いや絶対こいつはそんな事は考えてないぞロン」
「じゃあハリーはどうしたっていうんだい?」
ハリーは本当に不機嫌な様子で目を細めた。
今にも舌打ちしそうな程にガラが悪い目つきである。
「……額の傷がずっとじくじく痛んでるんだよ。今までも時々こいういう事はあったけど、こんなに長く続くのは初めてだ」
ぐしゃ、と傷のある額に掛かる前髪を荒っぽい動作で握り、吐き捨てるみたいにそんな事を言う。
私とドラコは目を見合わせると、そっと口を噤んだ。対処法が無い痛みに苛ついてるならそっとしておいてやるしか無い。
ハーマイオニーとロンはあれこれとハリーを宥めようとしているが、ピリピリしたハリーの空気は緩むどころか更に刺々しさを増すばかりである。
「
ボソリと呟くと、ドラコが小さく噴き出した。
そしてその次の瞬間、ハリーががばりと立ち上がる。やべっ、聞こえたか?
一瞬焦ったものの、どうやらそうではないらしい。
「──ハグリッドだ。会いに行って確かめないと……」
呆然と呟いたかと思うと、ハリーは物凄い勢いで湖畔の斜面を登り出す。
私とドラコは再度顔を見合わせた。ハリーの顔色は真っ青に血の気が失せていて、今すぐ保健室へ放り込みに行くべきかちょっと迷う。
んー、でもこの勢いだと目的を果たすまで止まりそうにないな……。
仕方ない、何が起こっても対処できるように黙って後ろをついて行くしかないか。
あーあ、マジ私っていいお姉ちゃんだなー。
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