二次 | ナノ


▼ 05

試験が近づくにつれて、ホグワーツは夏の熱気が高まっていった。
どうにも例年より気温が高いのか、七年生までバテていやがる。

暑さか試験かどっちが原因かは知らないが、頭が茹だり上がったやつもポツポツ出てくるようになった。
おかげさまで麻雀コンビが初めての共同作業で起こした赤緑寮間の冷戦が一気に核戦争へまっしぐら。世はまさに世紀末!

「先生!スリザリンの奴らが僕の借りた本をひったくりました!」
「先生!グリフィンドール生は大広間で大騒ぎして、我々が試験勉強をするのを邪魔しています!」
「先生!スリザリンの三年がグリフィンドールの一年生を的にして呪いの練習をしたそうです!」
「先生!グリフィンドール生から湖の畔で水を掛けられたと下級生から苦情がありました!」
「先生!」
「先生!」

スリザリン寮監のスネイプは毎日額に青筋を浮かべて過ごす事になった。そりゃそうだ。
我らがマクゴナガルも流石に頭が痛そうなご様子である。あのさぁ……。もうちっと高齢者を労るとかさ。

とはいってもそれぞれの寮からは少しだけ浮いた私達はそれほどその喧騒に巻き込まれる事もなく、一連のドラゴンイベントも回避していたため、平和かつ万全の体勢で期末試験の日を迎える事になった。

筆記試験はクーラーも無い大広間で、問題よりも暑さに頭をやられながらガリガリとやった。
殆どが記述式の問題に、穴埋め式ばかりだった日本のテストに内心で役立たずめ!!と罵りながらもなんとかそれを終えると、次は実技試験である。

呪文学。試験内容はパイナップルを机の端から端までタップダンスさせる事。

今年教わった呪文の中で、対象にダンスをさせる効果を持つのは『タラント・アレグラ』のみである。
だがこの呪文は対象に『クイック・ステップ』を踊らせるものだ。社交ダンスのアレな。

一年目から応用問題かー。割と難易度高いな?
なーんて思いつつ、どう呪文を応用させるか素早く考えていく。

タップダンスを踊らせる、という試験内容だが、無論パイナップルに脚は無い。
つまり、厳密にアメリカで発祥した黒人のダンスを再現しろという訳ではなく、ある程度のリズムを決めてパイナップルを跳ねさせればいいという事だ。時折ターンでも入れておけばそれらしさはぐっと上がるだろう。

そこで私が頭に思い浮かべたのは、アイリッシュのステップ・ダンスだった。
ダンスの定義には詳しくないが、ジグ……だったかな?中世っぽいファンタジー映画なんかでは結構おなじみだろう。
まあ、素人目には似たような系統──床を踏み鳴らすタイプの踊りだ。

ところでこれは理論の話だが、呪文による魔法を使うにはそれなりのプロセスが必要になる。
重要度の高い順から言えば、
@効果のイメージ
A魔力の操作
B理論
C杖や動作による補助
D呪文
という風に並ぶ。重要度が低いほど、習熟すれば省けるプロセスになっていくわけだ。

原作でも姿現しの訓練の際に言及されていたと思うが、この世界の魔法は『どんな効果を発揮するのか』のビジョンがかなり重要なものになる。

物理法則を思いっきり無視したこの世界の魔法使いが万能でない理由は、『頭に思い描けないものは使えない』からだ。

頭にどこかで聞いたような陽気なヴァイオリンの舞曲──なんだっけ。ああそうだ、Morrison's Jigだな──を鳴らし、それに併せてパイナップルを跳ねさせる。よし、イメージはこれでオーケー。
あとは?そうだな、元の呪文をそれに合わせて少し変えよう。

変えるのは補助の部分だ。つまりCとD。杖の振り方と呪文である。
いかにも社交ダンス踊りだしそうな優雅で早い杖の振りを軽快に跳ねさせて、呪文もイタリアの地方舞踊(タランテラ)からもっとイメージに近いものに。
アレグラの方はそのままで良いかな?恐らく音楽用語のアレグロから来てるし、あれの原義は『楽しげな』だ。アレグラだと花粉症の薬みたいだし引用元に忠実にいこう。

この世界では呪文は基本添え物だ。イメージに近く、発動のトリガーになりゃそれでいい。

「ジグ・アレグロ」

パイナップルは軽快に机の上を跳ね回った。
やや酔っ払いみたいだったのは、まあ、酒場のシーンを頭に思い描いてたからかな。

「素晴らしい!!」

フリットウィック先生には気に入ってもらえたようだった。

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