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「ダリア、聞いて!!」
純血一族についての知識を増やしてから暫く、バターンと騒がしい音を立ててまだ選手用のローブから着替えてすらいないハリーが部屋へと駆け込んで来た。おいおい、ハリーがこんな興奮してんのも珍しいな。
「どうしたハリー」
「それが……っ、あ、セレマとドラコも居るのか……」
どうやら二人の存在にも一瞬気づかなかったらしい。こりゃどうしたもんかなと思いながら、取り敢えず紅茶を渡してハイ落ち着いてとそれを飲ませる。
「駆けつけ三杯だぜハリー」
「何だそれは?」
「ん?高度成長期のアホな風習」
「ますます意味が分からないんだが……」
首を傾げるドラコにニヤッと笑ってみせて、それから紅茶を飲み干したハリーにもう一杯注いでやる。
「そんで?セレマとドラコがいると話せないような事って何だよハリー」
「いや別にそういう訳じゃないんだけど……」
「何だよ煮え切らないな。生理でも来た?」
「……ちょっと。」
「……ジョークにしても下品過ぎるぞ、ダリア」
ハリーとドラコの両方に半眼で睨まれて、ワリ、とてへぺろする。全然可愛くないからね、と宣ったハリーに軽くチョップを落として、それからペースを戻すために自分のミルクティーを飲み下した。
「うーん……取り敢えずダリアに聞いて貰いたかっただけで、特に秘密にするつもりは無いけど……」
私が話を聞く体制を取った事を察したハリーは、まだセレマとドラコをどうするか悩んでいるようだった。
「秘密にするつもりも無いなら喋ってもいいんじゃねえの?」
「うーん。まあ……いいか。でも、出来れば笑わないで。聞いて欲しかった話っていうのは、この学校に賢者の石があって、それが死喰い人の残党勢力が狙っているかもしれないって事なんだ」
渋った割にあっさりと言い切ったハリーは、いつものようにクールな表情だ。
……はぁ。あれ?この時点でハリー達ってそこまで情報掴んでたっけっか。
もう殆ど覚えちゃいない薄らぼんやりとした記憶によると、ハリー達はまずハグリッドがポロッとゲロったニコラス・フラメルを調べて、そこから独自に賢者の石の存在に辿り着くんじゃなかったか?
「……死喰い人だって!?」
流石に聞き逃せないと思ったのか、一気に表情を険しくさせたドラコが声を引き攣らせる。まあ、確かマルフォイ家って死喰い人じゃありませんヴォルデモートなんて知りませんっつって逮捕を逃れたらしいし、それに今は秘密裏にマグル社会での立場を回復させてたりするしな。
対外的には純血主義を保ちつつ、ひっそりマグル方面でも影響力を確保してるあたり、マルフォイ家ってのは本当にスリザリン気質ではある。つまり、狡猾だよなって話。
「ダンブルドアがニコラス・フラメルから預かっていた賢者の石を、グリンゴッツからこの学校に移したんだ。防犯のために。グリンゴッツに強力な闇の魔法使いが忍び込んだって日刊預言者新聞に載ってた。ダンブルドアは誰かが賢者の石を盗もうとしてる事に気付いて、事前にそれを防いだんだ」
「分かった、分かったからちょっと落ち着けハリー。はい、もう一杯」
殆ど無表情の癖して機関銃の捲し立てたハリーは全く興奮を落ち着けていなかったらしい。無理矢理紅茶を口に突っ込んで、強制的にちょっと黙らせた。
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