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「ところで、ずっと不思議に思っていた事があったんだけどさ」
試合の後、私とセレマとドラコは三階の小さな空き教室に居た。大広間から持って来た軽食でアフタヌーンティだ。
此間ハリーと地図を制作して分かった事だが、この城には使われてない教室がかなり多く存在している。もっと有効活用しろよ。余談だが、殆どの階で外壁の測定から得た面積と内部構造の面積の計算に大きな差が出た。空間を拡張させるような魔法が掛かってんだろな。マジ質量保存の法則仕事しろ。
「ん、なんだ?」
声を掛けた相手であるドラコがワンテンポ遅れて本から顔を上げる。読んでいるのはどっからどうやって手に入れたのやら、『パスカヴィルの犬』だ。推理小説って柄かよ?いや、ドラコにはそもそも読書のイメージがあんまり無いんだけれども。
「入学してすぐの頃、私がマグル生まれだってすぐに広まったじゃん。でも混血もマグル生まれも結構な数居ると思うんだけどさ。どうやって魔法族は相手が純血の魔法使いかどうか知るんだ?」
ドラコは「その話か……」と顔を顰めた。純血思想が一挙に集まるスリザリン寮で、グリフィンドール生とつるんでいるドラコの風当たりは強い。どちらかと言えば仲は悪いが、血を裏切るものとかいう、『純血の癖にマグルに靡く連中』として侮蔑の対象になりやすいウィーズリー家のロンとも、他のスリザリン生に比べると信じられないくらい距離が近いしな。
「そうだな、君は聖28一族というものを知ってるか?」
「何だよその死徒27祖みたいなやつ」
おっと。思わずぺろっと口に出したが、そういや月姫はまだこの時代には無かったな。絶対分からんとは思うけど、未来の情報は簡単に喋らないように気をつけないとならない。
「死徒って何だ……。あー、1930年代に書かれた純血一族一覧という本があってね。僕たちはまずここに載ってる氏名で相手が純血かどうかを判断するのさ。僕の家の名やウィーズリー家も載っている。他にも君が知ってそうな家名だとアボット家や、マクミラン家なんかもそうだ」
ただこの28の家名だけが純血だという訳じゃない、派生した家名もあるからな、と付け足された言葉にふんふんと相槌を打つ。
「次に参考にするのはブラック家の家系図だろう。ブラック家はそういう意味じゃかなり信用出来る純血のリストだ。ブラック家の純血主義は頭一つ抜けているから」
「ブラックね。ハリー関連で名前を見たことがある」
「アズカバン行きになったシリウス・ブラックか?血縁上僕の母方の従兄弟叔父にあたる人だな。家系上では絶縁されているらしいが」
そうそう、と頷いて、同時に原作三巻の内容を思い出して内心げんなりする。感情的で短絡思考なお犬のおっさんが散々可愛い名付け子を困惑させるばっかのストーリーだ。もうちょっと搦手で動けないもんかね。
「ああ、ちなみに興味深い事に、祖父母の末の妹はポッター家に嫁いだと記録があった。チャールズ・ポッターという人と結婚したそうだ。母上の嫁入り道具の中にあったものだから信用性はかなり高い。家系上も抹消されてない」
「え、マジ?」
衝撃の事実だ。私とドラコはハリーを通して遠い姻戚関係である可能性が微レ存って事かよ。
「ポッター家は目立った血族じゃないが、一応純血と目される一族だ。マグルにも同じ名前が多い等の理由で聖28一族からは除外されてるけど。まあ、そういう家も幾つかあって、僕たちみたいな純血主義の家の人間はホグワーツに来る前に大人達から大体の純血の家名を教育される事になってる。
君がマグル生まれだって広まったのは、ハリーの両親の姉弟はマグル生まれの母親の方にしか居ないとスリザリンの多くの人間が知っていたからだ。それに君は自分がマグルの家で育った事を隠しもしないし」
「はァん、なるほどなあ」
確かにマグル生まれである事は一切隠しちゃいないな。寧ろ思い返してみると、「マグル社会で育ちました」と自己紹介するかのような行動ばっかだった。
そりゃあ魔法族であることに大変なプライドをお持ちのようである純血主義者共から初っ端から穢れた血がどうこう言われるわけだ。マグル様式は視界に入るのも不愉快なんだろうな、きっと。
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