二次 | ナノ


▼ 04

「知らない天井だ……」

いや、医務室の天井だけどね。
目覚めたら医務室のベッドに寝かされていて、横になっているというのに私の頭は酸欠の時のような痛みを発していた。
そうか、トロールぶっころがした後に目眩で倒れたんだっけっか。

「目が覚めたみたいですね」

「……セレマ?」

横から声を掛けられて、そちらに視線を向けるといつもと同様の穏やかな笑みを湛えたセレマがそこに居た。それと同時に、彼女に左手をにぎられている事に今更気が付く。

「私、何で倒れた?」

「魔力切れ……ですね。正確に言うならば、あなたが使った魔法があなたの許容量を越えてしまって、ですが」

「あー」

なるほど、と頷きながら、私は今更露見した自分の魔力量について、内心で盛大に舌打ちした。
この世界の『魔力量』というのは、ゲームのMP的な概念とは少々異なっている。放出したり、魔法に変換できるエネルギーとしての『魔力』は魔法族が有する超自然的な力であるのは確かだが、魔法を放つことによって体内の『魔力量』が減ったりする事は無いのだ。
いうなれば、それはプロセッサーの役割に近いかも知れない。魔力を使用すればするほど自身に負担が掛かり、処理が追い付かなくなれば──つまり許容量を超えて魔術を使えば、当然待つのは処理落ち、フリーズ、或いはクラッシュである。

「使った呪文なんてたかが知れてるんだけど……」

トロールと対峙した時間は十分にも満たなくて、その間に使った魔法といえば、プロテゴもどき、浮遊呪文、魔力付与、スコージファイ。これだけだ。

「……あなたはあまり、魔力量が多くありませんから……」

少々哀れんだような調子でセレマはそう言った。酷く言いにくそうなので、あまりどころか物凄く魔力量が少ない可能性がある。

「実のところを言うと?」

まだるっこしい察し合いの一切合財を抜かしてそう尋ねれば、セレマは諦めたように溜息を一つ零す。

「よくホグワーツに入れましたね……」

そんなにか。
いや、よく考えてみれば、原作のハリーがしょっちゅう魔力の暴走を起こしていたのに対して、私はいくら感情的になっても魔力暴走を起こしたとおぼしき場面は一度きりだけだった。無論あの爬虫類館での事である。
まあ、あれはハリーと共鳴した線も否めないのだが……。

「どうすりゃいい?毎度ぶっ倒れてちゃ話にならんのだけど」

「魔力量はある程度年齢と共に増加します。増加量は人によって異なりますが、基本的には負荷に対して許容量が増えるようですね。そして、老いと共に今度は少しずつ減少します。」

「え、でもジジババ共のが遠慮なく魔法ぶっ放してねえ?」

遠慮なく魔法をぶっ放しているジジババは、この目で見たものではなく映画や小説での話だが。

「老成した魔法使いと未熟な魔法使いでは、魔力のコントロールに純然たる差があるのです」

「それって、未熟な奴ほど魔力の無駄遣いが多いって事?」

「そうですね」

……なるほど、そういう事か。つまり許容量を増やすには、たくさん魔力を使いまくってたくさんぶっ倒れる、又は魔力の無駄遣いを無くす……この二つの方法が求められるわけだ。

「……本当は、魔力は人体ではなく、アストラル体による働きかけなのですが……」

「え、何?アストラル?」

「……まだあなたには難しいでしょうから、これは今度に致しましょう」

気になる単語が聞こえたが、聞き返すとセレマはにっこりと笑ってその話題を先送りにしてしまった。そういう風に言うという事は、どうやらそれは普通のウィザードなら学ばない概念らしい。

「それって、エルフの知識?それともセイジの知識?……それか、ローゼンクロイツの知識?」

「エルフの概念ではない、とだけ言っておきましょうか。いえ、エルフには当たり前に見える世界の構造と言うべきか……」

「ふぅん」

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