二次 | ナノ


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次の週の火曜、午後三時に私はセレマ、ドラコ、エステラと共に大広間を出た。飛行訓練の為だ。
ハリーたちは少しした後に見学に来ると言っていた。クディッチ選手になってからというもの、既にハリーはそのクールでホットな魂の大半をそれにつぎ込み始めている。初めて空を飛ぶ奴のぎこちない動きを分析し、それによって自分の動きを修正するのが目的らしい。

ドラコの半歩斜め後ろにはパンジーみたいな顔のパグ犬が今にも噛み付きそうな形相でこちらを睨みながらついてきていた。あ、違った、パグ犬みたいな顔のパンジーだった。すまん、悪気はあった。

「へえ、広いじゃん」

飛行訓練が行われる中庭は、映画で見た通りである、というのが第一印象になった。
洒落た造形が一欠片も無い灰色の石組みで出来た高い城壁と、青々とした芝生。そこに箒が二列に並べて置いてある。
新入生が勝手に箒に触れないようにか、担当教師のマダム・フーチは既にその箒の列の間に仁王立ちしていた。鋭い形の金色の目は、なるほど確かに『鷹』に喩えるのに相応しいだろう。
彼女の気に触らないよう、他の生徒が集まるまで箒に近づかずにいる事にした。

「そう言えばさ、この前基本呪文集を見てて思ったんだけど……」

暇なので話題を取り上げる。基本呪文集、という言葉にドラコとセレマはすぐに小首を傾げた。
人の話を聞くとき、相槌を打つよりも小首を傾げてい方が話に興味があるということになるらしい。昔、何かの心理学ネタで読んだ。どうやら突飛に感じられる魔法族も、生きている世界観が全く違うハーフエルフも、マグルと同じ様な心理が働いているようだ。
それは置いておいて。

「なんで呪文って、ラテン語が元になってるのが多いんだろな?」

「……どういう意味だ?」

ドラコが小さく肩を竦めた。その後ろでまだパグ、じゃねえパンジーが私を睨んでいる。まるでドラコの背後霊だ。南無阿弥陀仏。

「ケルトのドルイドなんか、有名だろ?つまりブリテンにはラテン人の流入より前から魔法体系が存在した事になる。彼等が呪文の概念を持っていたかは知らないけど、少なくとも、私達の使う呪文はラテン語じゃなくてゲール語とか、或いはゲルマン系の言葉である方が自然なんじゃないかなって」

「きみ……」

自分の考えを一気に述べると、セレマは天を仰ぎ、ドラコはマジマジと私を見つめた。セシリアはスペインから渡ってきたからか、キョトンとしている。

「何だよ?」

予想外の反応が帰ってきたので、今度は私が首を傾げる番だった。

「……後で談話室で話しましょう」

「……そうだな。それが良いだろう。」

セレマとドラコが何やら通じ合っている。何だかよくわからないが、どうやらおおっぴらに話す事ではなかったらしい。あれか、ウィザードとセイジの対立関連か。

「流石、穢れた血は言っていい事と悪い事も知らないのね!」

ドラコの後ろから揶揄するパンジーの声が聞こえてきたが、それにはドラコがぐるんと振り返ったので、対処は任せる事にする。
そういや穢れた血って言うけど、どっかに魔法族の血が入ってるかもとか考えねえんだな。先祖返りの可能性、無きにしもあらずだろうに。

……ん?違うか。マグルから生まれた魔法族だからじゃなくて、マグルの血が混ざった魔法族だからこその"穢れた血"なのか?
マグルが先か魔法族が先か問題は、マグルから魔法族が突然発生したという歴史認識がされている。どう足掻いても遡ればマグルに行き着くのに、直近のマグル生まれだけを穢れた血と呼ぶのはなんでなんだ。
ふと思いついたその疑問を頭に留めておく。

その後飛行訓練は順調に始まり順調に終わりました。何も事件的な事なんざ起こりゃしなかった。

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