二次 | ナノ


▼ 29

天文学の授業は夏の間は非常に心地良い。天体観察をしながらゆっくりと星々を覚えるのだ。

最初に教えられたのは夏の大三角形、ベガとアルタイルとデネブ、見分け方として今日はその周囲の星座、こと座とわし座とはくちょう座について習った。
形さえ覚えてしまえばなんとなくわかってくる。アルタイルとベガの間には天の川もかかっているしな。ちなみにデネブは天の川の中に見える。

「ところでさ、エルフがいるってことはドワーフやホビットもやっぱ実在してんの?」

デネブ含むはくちょう座を頭に焼き付けるために睨みながらのこの質問に、隣のセレマはあっさりと首を縦に振った。

「ドワーフというのはゴブリンの祖先ですね。ホビットはこの地のあたりに遠い昔存在した人類の事です。どちらも既に純粋な種としては絶滅しています」

「……え、まじで?

衝撃的な事実が露見して思わずセレマに顔を向けてしまった。

「事実です。勿論彼の創作はフィクションですけれど……。」

「どこからどこまでがこの世の真理でどこからどこまでが創作なんだ……」

呻くように呟くと、セレマがくすくすと笑う。眼福。つい拝みそうになるくらいの人外の美貌である。


「──この世界は、ひどく曖昧だ。なぜならば、沢山の世界が重なり合って形作られているのだから。故に真理は存在せず、全てが異なる理の中に生きる。」


まるで歌うようにセレマが囁いたものだから、一瞬その調べが何を意味しているのかわからなかった。

「母の言葉です。古くからエルフに伝わるものだそうですけれど、まだ私には理解するには難しいため今まであなたには伝えませんでした。」

「うん、ちょっと私にも良くわからん」

流石エルフ、哲学の為に存在する生き物。あっさりと人間の理解の範疇を超えてくるぜ。あ、でも、それだったら『肯定』の仕方が人それぞれでいいのもわかるような……、いややっぱりわからん。

「こら、授業さぼったらあかんねんで?」

「うわ、エステラ!尻突然撫でるとか変態臭いぞお前!」

思考の迷路に迷い込みそうになった私を底抜けに明るい顔したエステラがセクハラで引き戻した。これは流石にトッテモ・シツレイ。セプク案件。

「隙だらけな方が悪いんや!」

「ほお、言ったな」

ケラケラ笑うエステラの頬を掴み、息の掛かりそうな程に顔を近づけてやる。案の定固まったセシリアの瞳を至近距離で覗き込むと、途端にあわあわ言い出す。

「ちょちょちょちょっとタンマ」

「隙がある方が悪いんだろ?」

ニヤ、と唇の端を上げる。エステラは顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。

「──何してるの、ダリア」

「お、ハリー。何してるのって、遊んでるだけだぜ?」

呆れた顔のハリーが止めに入ったので、仕方なくエステラの頬から手を離した。お仕置きは終了だ。残念ながら。

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