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ハグリッドの小屋はパッチワークに彩られた、なにやら用途は良くわからないのに矢鱈と使用感のある道具で少々雑な、よく言えば生活感のある空間だった。
「それにしても、ハリーとロンはともかくお前さんまで来るとはな、ダリア。俺はお前さんには嫌われたのかと思ったが。」
「嫌うほどまだあんたに関心ねぇよ、ハグリッド。」
ぼやくように言うハグリッドに、別に嫌悪感は無い。しかし、当然だが好意も興味も無い。表情も変えずに言った私の言葉が本心だと分かったのだろう、ハグリッドは「随分大人びとる」ともごもご呟きを口の中で転がす。
「まぁ、弟分が余所にお邪魔して粗相しないようにってとこだよ。これ、お茶菓子にでも。」
要は保護者代わりである。私が差し出したチョコパイの包みを受け取ったハグリッドは、何とも言えない表情で私を見ている。なんだよ。
宣言した通りハグリッドとハリー達のやり取りは黙って聞いていた。ハグリッドが用意した茶菓子は硬すぎて食べれそうにもないので、自分で土産として持ってきたチョコパイを食べた。うまー。
近況報告を終えたハリー達は、いつの間にやら新聞の記事について話をしていた。こんなシーンあったような、無かったような。特に興味無いので無視した。
クィレル教授がヴォルデモートの復活の為に賢者の石を手に入れようと頑張る話は、どこでどう私に関係してくるかわからない。そもそも私に関係あんのかすらわからん。ただ、今何をしようとも思わない。何が出来るとも思ってないしな。
夕食が始まる少し前にハグリッドの小屋をお暇した。紅茶御馳走様っしたー。
大広間では既にハーマイオニー、セレマ、ドラコがグリフィンドールのテーブルの中央を占拠していた。そこに珍しく、赤毛の頭が二つ紛れている。
「フレッド、ジョージ」
「やあロニー坊や。」「一週間も俺達を放っといてパースとつるんでるなんて驚きだな。」「エリート出世コースに興味でも湧いたのか?」「それともパースに勉強に恋する呪いでもかけられたのか?」
双子の先輩はいつ打ち合わせをしたんだと思うくらい完璧なタイミングで言葉を紡ぐ。そういえば、同寮なのに今まで殆どまともな面識を持った覚えがない。
「うるさいぞ、二人共」
「こんにちは、フレッド、ジョージ。入学式以来だね。」
憤るロンに構わずハリーが丁寧に挨拶をする。
ところで非常に今更だが、イギリスでは基本的に先輩後輩という概念は無い。同じ学生同士くらいなら大抵フランクな英語でやり取りをする。何が言いたいのかというと、ハリーは別に先輩に対して敬語の使えない残念な子というわけではないということだ。
「ハリー、久しぶりだな」「元気そうでよかった」
軽やかに挨拶を返した双子の視線がこちらに向く。
「はじめまして。ハリーのイトコのダリア・ダーズリーだ。」
「ロンの兄のフレッドと」「ジョージ。よろしく!」
差し出された手を握り返す。思ったよりまともそうな双子に内心ホッとした。ハリー・ポッターの内容で一番ぶっ飛んだ事をしていたのはこの二人だという印象が強く、対人能力に問題があったらどうしようと密かに危惧していたのだ。
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