二次 | ナノ


▼ 24.トウヤと疑惑

転生ってヤツを皆様ご存知ですか。前世の業によって生まれ変わったあとどんな世界になるのか決まるって有名なアレのことです。でもさぁ、ヒンドゥー教だって仏教だって物理法則すら違う異世界に、前世の記憶を保持したまま生まれ変わるなんて一言も言ってないよね。

オールドラントって何処ですか。地球がとても懐かしいんですが。



どうもはじめまして、私、前世(異世界)の記憶があるという変な女ことトウヤですよろしく。

剣と魔法のファンタジーな世界に生まれ変わって苦節17年。ここまでの人生だけでもかなりの苦労をしてきたと思うのだが、現在の状況はこれから先の事を含めても最もヤバいのではないだろうかと思っている。
半年以上の記憶を飛ばしていて、その間に何をやったのか私のソックリさんがローレライ教団で追われるようになったのだ。

その人はキリヤといって、本当に私に似ているらしい。
お陰様で現在私は教団の軍部、神託の盾騎士団本部の最奥、地下深くに二ヶ月もの間監禁されている。その人は記憶喪失という事になっていて、私とその人が本当に別人なのか疑われているという訳だ。
しかもキリヤさんは何をやらかしたのか、恐らく命を狙われている。

前世の記憶によれば、突然別の人格になって別の人間になるという現象は存在するらしい。原因は不明。怖い話だ。
もし本当にその現象が私の身に起きていたとするなら、私とキリヤさんは本物の同一人物という事になる。どうすれば生きてダアトを出れるというのか……。
一応、キリヤさんと同一人物ではない、という見方の人もかなり居るのだけどね。



「あ、今日も来たんだ。」

ドアが開いて緑の髪の少年が入ってくるのを苦笑気味に迎えると、彼は面白くなさそうに「そりゃ、監視だからね」と返事をした。

彼はシンクといい、神託の盾騎士団の人間だ。詳しい事は知らないし教えて貰えもしないので判然としないが、予想ではかなり地位の高い人物である。
キリヤさんに一番近かったのがこのシンクで、故にシンクは私の監視する仕事をしている。

とは言え私にはどうやったってここから逃げ出せはしないし、そうする気も無い。そんな訳で監視なんて仰々しい言葉の割に、内情はとても気楽で、基本的には1日毎に様子を見に来るという程度だ。

「まだまだ疑いは晴れなそう?」

「そうだね」

一応ダメ元で尋ねてみるも、シンクは首をゆるく横に振る。私の解放への道程は長いようだ。苦笑に頬が引き攣る。

シンクはキリヤさんの一番近くに居たというだけあって、初めてまともに話した時から私がキリヤさんとは全くの別人であると判断した人だ。
シンク曰く、キリヤさんの雰囲気や性格はかなり特殊なもので、簡単に隠せるものでも逆に作り出せるものでもないという。

それに、はっきり目に見える理由として、キリヤさんの横腹には傷跡がある筈なのだそうだ。私にはそんなものはない。
それを理由に私の解放を上司に頼んでくれているのだが、どうしてか断られている状態なのだ。

「うーん、別に疑われてても良いんだけどさ……この監禁だけどうにかならないかな」

目下それが一番の問題である。

「監禁のみの解除ね……一応頼んでみる。ただ、その後どういう扱いになっても文句言わないでよね」

「閉じ込められるか死ななきゃなんでもいいよ。ありがとうね、シンク」

親身になってくれるシンクにお礼をいうと、彼はそっぽを向いた。彼は私に協力的ではあるけれど、元々キリヤさんに似ている私が物凄く苦手なのだ。
単刀直入に気味が悪いと言われたが、まぁ判らなくもない。

「ねぇ、シンク。シンクってさ、そのキリヤさんとはどういう関係だったの?」

「は?何、いきなり」

「いや、単純な興味。キリヤさんの顔した別人に嫌悪感がある程度には親しかったんでしょ?」

「アンタにそんなプライベートな事まで話す必要はないだろ」

ばっさりと切ったシンクが呆れたように溜息をつく。

またか。

──……うん?何故か既視感を覚えて、内心で首を傾げた。
今のは初めて見たシンクの仕草だと思ったのだが……普段から溜息を吐かれることの多い性格ではあるので、単に見慣れた反応であるというだけの話かもしれない。

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