二次 | ナノ


▼ 19.兄弟子と父との再会

地面に足も届かないような大型のバイクを真っ直ぐに南へ走らせる。エンジンはフル回転だ。

途中から荒野に車の通った轍を発見し、それに沿って進む。……見えてきた、あれが南斗聖闘殿!
ブレーキを踏んでバイクを止めるのももどかしく、私はそのままバイクを乗り捨てる。

「レイさんッ!!」

駆け込んだ私が目にしたのは、レイさんが飛翔白麗の両の手刀を振り下ろす姿だった。

紛れもない父の、その肩から胸元まで伸びた手刀の軌跡に沿って鮮血が噴き出す。頭を殴られたような強いショックを受けて、身体から力が抜ける。その場にがくんと膝をついた私に、その場にいた全員からの視線が注がれる。

「キリヤ!!?」

「なに、キリヤだと……!?」

レイさんの腕の中に倒れ込んだ父が目を見開く。

「ぁっ……と、父さ……」

がくがくと全身が震えて、歯の音が噛み合わない。
何を言えばいい。レイさんの拳に敗れて死にゆく父に、何を。

「……、キリヤ……。済まなかったな……。」

父がゆっくりと、私に謝罪の言葉を述べた。なに?どういう事?どうして父さんが謝っているの?

「……あぁ……リンレイに、似て美しく育ったな。ワシがこの手で殺したが、世界で一番美しい女だった。本当に、済まなかった……」

「…は、……」

息を吸うことも吐くことも出来ない。父さんが、母さんを……なんて言ったの?理解出来ない。

「ワシの負けた、レイよ。さあ、とどめを……」

「ロフウ……」

レイさんと父の声がどこか水を挟んだ向こう側みたいに鈍く滲んでいる。二人が果てしなく遠く感じられた。



「……ヤ、キリヤ!しっかりしろ!」

「……レ、さん?」

ぼんやりと見上げると、そこにはレイさんの焦ったような表情があった。ああ、レイさんだ。夢にまで見て焦がれた人が、目の前に、ちゃんと実在している。

「……大丈夫か?」

頬が冷たい。思わず指先で触れると、指先が濡れる感触があった。

「……すまない、キリヤ。お前の父を、師父を手に掛けた。」

レイさんの指先が私の涙をそっと拭う。ひどく温かみのある、硬い手だ。レイさんの綺麗な顔が、不安そうに揺れていた。

「アニキ、その人は……?」

恐る恐るといった様子で、レイさんの背中越しに声が聞こえた。視線を向けると、そこにはシュウさんと、それから見知らぬ女の子が立っていた。

「……彼女はキリヤ。レイの妹弟子であり、フウロとリンレイの娘だ。」

「フウロの……」

シュウさんの説明に痛ましげに歪められた彼女の表情をみるのがどうしてかとても辛い。込み上げる嗚咽を飲み込むことさえ出来ず、泣き顔をこれ以上晒したくもなく、レイさんの胸へと額を当てた。
ぼろぼろと涙が零れて地面に斑点を描く。嗚咽でさえも誰にも聞かせたくないと、自らの手で口を抑えた。

「……シュウ、ユウ。悪いが、少し二人にしてくれ」

レイさんの声が、またもや遠くに聞こえる。二人は無言で立ち去ってくれたようで、レイさんは私の頭と背にその両手を回した。
夢の中と同じように、あやすように軽く背を叩かれる。ゆったりとしたそのリズムにあわせて呼吸を落ち着けていくと、やがて嗚咽は鎮まっていった。
喉の奥が悲しみでツンと痛い。
私はレイさんの胸元をぎゅっと握りしめた。まだ、泣き出しそうなのは全然収まってない。

「キリヤ」

「ん、もう少し……」

とくとくと響いてくるレイさんの心音に耳を傾ける。本当に今更ながら、やっと帰ってこれたんだと心の底から思えた。

「父さんは、どうして……いや、違う、わかってる……」

その体得した南斗水鳥拳から女拳を排してしまうほど力のみを求めた人だ。覇を求めて乱世に立った事は容易に理解できる。
せめて最後に、弟子が自分を超えた事を認められたのは父に安らかな眠りを齎した筈だ。それだけが救いだと思えた。

「ね、……レイさん。父に墓をつくっても、いい?」

「ああ、勿論だ……。」

「そうしたら、またすぐにアイリちゃんを探さないと」

「そうだな。
……全く、薬草の街で待っていろと言ったのに、無茶をする奴だ」

「違いますよう。レイさんがエバって人を殺したんじゃないかって、街にいられなくなったんです」

ごし、と涙を拭う。ぐずぐずしている暇は無い。故人を悼むよりも、生きている人を──アイリちゃんを、先に取り戻さなければ。

「……、キリヤ。お前……?」

「?なんですか?」

すっくと立ち上がった私に、レイさんが訝しげに眉を寄せた。何かおかしなところでもあっただろうか?首を傾げたが、レイさんはいや、と頭を振って、何事も無かったかのように立ち上がった。

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