二次 | ナノ


▼ 11.第一師団長と探索

次の日、約束通り六時に修練所へ来た私を出迎えたラルゴは、私の様子を上から下まで見るなり一言。

「おいお前、武器はどうした」

「私拳闘士なんです」

彼は驚いた顔で私を見た。ラルゴの後ろには昨日のシンクとの手合わせで私が刻んだ壁がある。もしかしなくても、バレてる?

「……期待できそうだな。取り敢えず、これは携行品だ。支給品だから遠慮なく持っておけ」

ラルゴが手に提げていたポーチ付きのベルトのようなものを差し出した。受け取って中身を確認する。アップルグミが二つと、パナシーアボトルとダークボトルが一本ずつ、それから携行用の食糧が三食分ほど入っていた。それを腰につけると、ラルゴが更に何かを差し出した。

「それからこれを身に着けておけ。腕でも首でも何処でもいい」

それはドッグタグだった。無骨な銀色のプレートが二枚、チェーンからぶら下がっている。

「縁起でもないなぁ……」

「規則だ。万が一の事が起こった時、遺品すらないのは嫌だろう?」

確かにそうだったので、何も言わずにそれをつけておいた。



ダアトより南東、パダミヤ大陸をぐるりと覆う高山地帯の東端が今回の討伐任務の対象が確認されている場所だった。

「切り立った崖の上での戦闘は初めてか?」

「いや、主な修行場の一つがそんな所だったから慣れてますよ」

「お前のその……南斗水鳥拳といったか。全く聞いて呆れる拳術だな」

ありえん、とラルゴが鼻を鳴らしたので、私は乾いた笑いを返すより他に無かった。最近笑って誤魔化したり有耶無耶にすることが増えた気がする。

「あらゆる足場での戦い方を学んでおかないと拳が死ぬような流派ですからね、水鳥拳は。」

「流派だと?他にも南斗の名を冠する拳が存在するのか。」

何気なく言った一言がラルゴに拾われ、あ、と気づいた時にはもう遅かった。

「あ、いや、覚えてないです」

「なに……例の記憶喪失か。」

ラルゴが同情したように私に視線を向けた。言えない事と分からない事の全てを覚えてないですの一言で済ませれるのはとても楽だったが、嘘が増える度に胃がチクチクする気がする。悪党以外を騙す事に罪悪感くらいある。

「止まれ。あれを見ろ」

高山地帯に踏み込んで三十分も歩いただろうか。ラルゴがふと私を制止し、崖に沿うようにポツンと生えた木を指した。よく見ると不自然に枝が折れ、葉が落ちている。

「もう座学で教わったかもしれんが、このパダミヤにはこんな標高の高い場所に生息する魔物は居ない。唯一登って来れそうな魔物はナイトオウルという種だけだが、奴等は森を縄張りとするからな。」

とても分かり易い説明だった。私が頷いたのをみて、ラルゴは話を続ける。

「今回の討伐目標はエルグーダの群れた。エルグーダはここと海を挟んだラーデシア大陸に生息する魔物で、ラーデシア大陸の標高はパダミヤ大陸の平地よりよりかなり高い。今居るこの高山地帯の中腹、この辺りの高さが向こうでの低地に当たる。ダアトは海抜−5mに位置しているという事は知っていたか?」

「初耳です。ご教授ありがとうございます。」

「ふむ。では、今の情報を元に、エルグーダの群れをどのように見つけ出せるか案を出してみろ。」

私はごそごそとポーチを漁り、支給されたダークボトルを取り出した。ラルゴはそれでいい、と頷く。

「今の情報を整理すると、この付近にはエルグーダ以外の魔物は存在しないという事になります。ですからダークボトルを利用します。次に、エルグーダが鳥型魔物であるという事から、崖の出っ張りや木を探索していきます。」

「上出来だ。では、作戦開始。」

ラルゴの満足気な号令に、私はさっとダークボトルの中身を自分に振りかけた。目に色が見えるほど濃度の高い第一音素が私の身体に纏わり付く。
それから、私は先程ラルゴが指した木に向かった。

「おい、何をしている?」

ラルゴが首を傾げたが、答える間もなく目当てのものはすぐに見つかった。それを手に掴んで枝から飛び降りると、ラルゴがまじまじと私を見る。なんですか。

「これ、見て下さい」

「これは、エルグーダの羽だな。これがどうした?」

意図が解らずラルゴは訝しげに眉根を寄せる。私はそれに答えずに、手の中の羽をすんすんと嗅いだ。

「私、鼻が効く方なんです。」

「ほう……。」

感心したようにラルゴが頷いた。私はこの周囲にはエルグーダの匂いが残っていないことを確かめて、風下へ向かう。北から吹いてくる風に匂いが混じっていないとなると、もう少し南下したほうがいいだろう。地形的には西に移ることになる。

「お前、魔物の探索に向いているな。どうだ、士官学校を出たら第一師団に来ないか?」

「や、すみませんけど、私シンク謡士の推薦で入学してるんで、卒業後は第五師団に行く予定です」

「そうなのか。残念な事だ」

周囲に気を配りながら崖を進み、標的を探す。三十分もそうしていると、早くも風の中に獣の匂いが混じったのを感じた。

「あ、近いですね」

「気を引き締めろよ」

ラルゴが背中から獲物である大鎌を取り、構えた。私は頷いたが、身軽な拳法家としては表面上するべき事は何もないので、ただ神経を研ぎ澄ます。

そこから更に十分──こちらが相手を視認した時には、エルグーダのほうは既に襲撃の体制を整えてこちらへ飛翔して来ていた。その数四体。さあて……久々にまともに水鳥拳を振るえる時がやっと来た。

prev / next

[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -