二次 | ナノ


▼ 09.参謀総長と任務

士官学校に入ってから半年がたった。その間きっちり座学も受けて、ひとつ分かったことがある。このオールドラント、剣と魔法のファンタジーな世界だった。前の世界が暴力と略奪の世紀末な世界だったので、これはとても新鮮な気分である。

努力が実ってか、半年後には殆ど世紀末なあの世界にいた頃と遜色ないほど私の動きは研ぎ澄まされていた。しかし、これを同期の訓練生に試すわけにはいかない。死んでしまう。
しかし、実践訓練を行わなければ真に拳を取り戻したとは言えないだろう。

「つまり、実戦がしたいってこと?」

「まー端的に言えばそうだね」

文字を覚えてからというもの、私は週に何度か第五師団の事務室へ呼び出されていた。勿論仕事を手伝う為だ。
私としては読み書きをやるのははじめての経験だが、前世スキルがここでもうまく役に立った。お陰様で、シンクには使い勝手のいい部下として認定されてしまったようだった。

「訓練兵に与えるための下級の魔物の討伐任務が何件かあるけど」

「いいの?」

「何件か、っていうのは言い間違い。正しくは何十件かの間違い」

つまり、その幾つかを私の訓練用に使っても問題ないと言う事か。
それで頼む、とシンクに言えば、シンクはさらさらと何やら書類を書いて、私に差し出した。

「その魔物、担当は第一師団だから。持っていって監督になってくれる奴の認可を持ってきな」

「どーも」

多分わざわざ第一師団へ私を行かせたのは、第五師団には監督が出来る余裕のある人間が居ないためだろう。
基本的にこの師団の役割は参謀や統括といった事務処理が中心で、実働は大抵第一師団、第三師団、第六師団と特務師団の仕事だ。第四師団はダアトの守護・警備がメインだし、第二師団はほぼ医療班及び譜業設備の修理調整開発しかしないからね。



「実施訓練?士官学校に入って半年のひよっこが?」

もう何度聞いたかわからない台詞にため息が出そうになる。第一師団で私は散々たらい回しにされた挙句に現在その師団長の前に立っている。突き返されなかったのは単にその書類のサインがシンクのものだからだ。

「戦闘の方は、士官学校に入学する前から心得がありましたので」

「なら今更実施訓練など必要ないだろう」

第一師団の師団長、ラルゴはこのファンタジーな世界よりも世紀末の方が似合いそうな筋骨隆々とした巨体の男で、熊のようだった。

「それがですね、士官学校に入る前に、一ヶ月以上怪我で動けない期間がありまして」

「再訓練中という訳か。そうか、それで東南に現れたエルグーダの群れの討伐というわけだな。訓練生に任せるには荷が重いが、軍を動かすほどでもなくてどうしようか考えている途中だったのだ。
よし、では俺が直々に監督してやろう。働きによっては士官学校の方へ一筆書いてやっても良い。」

「じゃあ、お願いします。あ、士官学校へ一筆書くのは意味が無いんで、必要ないです。座学のほうが必要なので」

なるほどな、とラルゴは頷いた。エルグーダは28レベル帯の種なので、これに問題なく勝てれば私は士官学校での戦闘訓練なぞ一切必要ないことが証明されるが、そんなことをしてしまえば座学だけが続いて気詰まりを起こしてしまう。それだけは避けたい。

「では、明日の朝六時に第一修練所に装備を整えて来るように」

「はい」

ラルゴのサインがされた書類を差し出されて、それを受け取って礼をした。



「はぁ?まさか本当にラルゴ本人が出てくるなんてね」

報告と共に書類を提出すると、シンクが呆れ声を上げた。

「まさか本当に、ってことは予想はしていたんだ?」

「一応ね。アンタの実力が不明瞭だから、それなりに高位の連中から監督はつくだろうとは考えてた。」

なるほど、と頷くと、シンクは本当はね、と言葉を続ける。

「僕が一番最初にアンタの拳を見たかったんだけどさ。同じ拳闘士だし、アンタの拳術の動きには興味があるんだ。」

それはなんとなく気づいていた。やはり同じ拳法家として手合わせをしたいという気持ちがあるのはどの世界でも同じ事らしい。特に男とは強敵に惹かれる運命にあるようだし。

「ねえ、シンク。今日の仕事定時までに終わりそうにない?」

「え、何?」

「手合わせ、しようよ。少しでも慣らしておけるなら私としても都合がいいし」

私の提案に、シンクはぽかんと口を開けた。そして、くつくつと笑う。あ、その笑い方私のことをバカにしているでしょ。

「僕を肩慣らし扱いなんて、いい度胸だねキリヤ。いいよ、明日に響かない程度にボコボコにしてあげるよ」

物凄く楽しそうにシンクが笑ったので、これはちょっと、毎日仕事に謀殺されてストレスが溜まりまくっているな、と冷静に観察しておいた。まだ14歳のシンクがストレスでハゲたり胃に穴が開いたりしませんよーに。

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